1 祭りの夜に

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1 祭りの夜に

──人だ、人が混じっている ──例のおなごはともかくとして ──よいのか? 花祭りは妖の祭りぞ ──なぁに、ひめさまの楽しみが増えるならそれでよい   ばくばくと心臓が脈打つ。手足が重たい。殴られたこめかみが、ひどく熱を持ちだした。たまらずその場にしゃがみ込む。 俺の一挙手一投足に、人ならざる者たちの視線が絡みついている。 本当なら楽しい思い出になるはずだった俺の高二の夏の夜は、ろくでもない夜に変貌していた。 ミコト先輩が俺を庇いつつ、裏返った声で訴えた。因みに、先輩は、俺をここへ連れてきた張本人だ。 「もういいでしょ! お、お願い! 私を返して!」 その時、足音が聞こえた。 俺たちに集中していた視線が、雪崩を打つようにして、ある一点へと注がれる。 ミコト先輩と全く同じ顔をした浴衣姿の女──人の形をした人でないもの──が、満面の笑みで琥珀糖(こはくとう)をくちにしていた。
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