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2 神社の夏祭り
一緒に夏祭りへ行こう、という約束をミコト先輩にすっぽかされたのは、八月半ばの夜だった。
待ち合わせの場所にも来ないし、連絡もつかない。SNSの更新もない。
友達に連絡したところ、付き合っているのではないかと噂の同級生とかき氷を食べてはしゃいでいる姿が、写真付きで送られてきた。
あー、ふられた。これもう、絶対ふられた。
「カケル、ほら、これ食って元気出せ」
居間の畳に五体投地していると、祖父が机に皿を置いた。
それどころじゃねーんだよ、と心の中で悪態をつきながら、一応、目をやる。
透明感のある色とりどりの欠片が目に飛び込んできた。
え、と体を起こす。
「じーちゃん、なにこれ」
「琥珀糖。きれいだろ」
透き通った欠片は、アイスピックで砕かれた氷の破片に似ていた。潤むような断面に、冷たく澄んだひかりが乱反射している。
ひとつ、つまみあげる。まるで宝石みたいだ。
ぼーっと眺めていると、くくっと笑った祖父が言った。
「因みに、原材料は寒天と砂糖とその他着色料だ。ま、和菓子だな」
「まじか」
それだけで、こんなにもきらきらとしたものが出来上がるだろうか。
半信半疑で食べてみる。
表面にぷつりと歯が食い込んだ瞬間、口の中でほろりと崩れて驚いた。なんてあっけないんだろう。素朴な食感が瑞々しい。これは、とても良いものだ。冷たく、甘く、ほどけこぼれる夏の涼。
「ほんまは六月の和菓子なんやけどなぁ。SNS映えするから言うて、八月も出したみたいでなぁ」
ぼやく祖父をよそに、俺は、もう一つ、二つと欠片をつまんで平らげた。先輩にあげたら喜ぶだろうな、と思いつつ、ふられたんだったと思い出す。途端にまた落ち込んできた。ああ、もう。
ままならねぇぜと机に突っ伏した俺に、妹が容赦なく声をかけてきた。
「おにいちゃん、牛乳きれちゃったから一緒にコンビニいこ!」
夜に一人での外出を禁じられている妹のせいで、俺は、妹と連れ立ってコンビニへ向かう羽目になった。
等間隔に並んだ街灯の道を歩く。
お祭りどうだった? などと無邪気に話しかけてくる妹に適当に返事を返していると、名前を呼ばれた。
「カケルくん!」
街灯のあたっていない暗がりに、ミコト先輩がいた。
ぐしゃぐしゃの浴衣姿は、どこかで転んだみたいだった。
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