夜の続きを

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夜の続きを

まだ21時を過ぎたばかり、こんな日に一人で 家に帰っても眠れないと思い地元のメンバーで 集まると言っていた幼なじみに電話した。 「彼と早く解散したからそっち行ってもいい?」 「早くおいで、お酒無くなってくで。」 補充用の缶ビールを数本コンビニで買うと近くに 住む友達の家まで向かう。誰がいるんだろう。 家に着いてピンポンを押すと幼なじみが迎えてくれ 部屋の中に入れてもらう私は少し驚いた。 幼なじみの他によく見る顔ぶれの女子が二人。 てっきりそれだけだと思っていたら他に男子も三人いた。 そのうちの一人と会うのはかなり久しぶりで こういう集まりにはほとんど顔を出さないはずの 人物で、思わず「あれ」と声が出た。 「お邪魔してまーす。」「久しぶり。」「な。」 私達にはそんな会話が精一杯だった。 このタイミングか、しんどいな…。 少し来たことを後悔した。 そんな空気を知ってか知らずか幼なじみが 缶を差し出しながら私に質問する。 「彼氏と珍しく夏祭り行ってたんやろ? せっかくやのにもう帰ってきたん?」 「明日朝早くから仕事やって。」「そっか。」 「それよりお腹すいた、ピザちょーだい!!」 中学のときから続くこの曖昧な関係。中には当時 付き合ってた男女もいるのに今こうして友達として 仲良く集まってるのが私には不思議だった。 それぞれに付き合っている人がいようがいまいが ここでは関係が無くなる、唯一無二の存在。 あの人と付き合ってからはそんなこの場所から 疎遠になっていた。疑われたくなかったから。 だけど今日はそんなこと気にしなくていい。 この生ぬるい空気の中にいるほうが一人より全然良い。 馬鹿みたいにくだらないゲームで笑って 何度となくした昔話でまた盛り上がり、いつも以上に ビールは進んだけど中途半端に酔いきれなくて 日付を跨いだ頃に私は家に帰ることにした。 擦りむけた足の人差し指にバンドエイドを貼り お礼を言って家を出ると「待って、送ってくわ。」 と、後ろから今日ろくに話もしてないはずの人物が 私を追ってきた。「良いよ、そんな。」断る私をよそに 「俺ももう帰らなあかんからついでに送らせて。」 と家の中に手を振った。良いのに。昔からこの人は そうだった、いつも帰り道私を送ってくれた。 「みんなと一緒に泊まらんで良かったん?」 「もう良いわ、疲れた。」「同じく。」 「でも久しぶりに皆と会えて良かった。」 「私もこういうの久しぶりやった。皆変わらんな。 …あ、駅行くならこっちから行くと近道。 私、あっちやから。じゃあね、ありがとう。」 「家の近くまで送ってくって。危ないやろ。」 「…さっすが、モテ男くんは違うねぇ。」 「茶化すな、当たり前やろ。彼奴等がおかしいわ。 いくら家近いからって普通女子一人でこの時間に 歩いて帰らせるか?」「大丈夫やろ、多分。」 「ごめんやけど俺には無理、一人によーせんわ。」 「…相変わらず優しいな。じゃぁお願いする。」 「うん、そうして。」「ありがと。…それにしても 今日は集まりにくるなんて珍しいな?もしかして 彼女にフラレたん?」「ちゃうわ。」「…やよね。」 「仕事はやくあがれたし、皆に会いたかったし。」 「ふぅん。」「彼氏とは順調?」「うん、まぁ。」 「そっか。」そして、会話は途切れて沈黙になる。 こうなることはお互いにわかってた。私達は昔から いつもそうだった。二人の足音だけが鳴り響く。 「あのマンション、私の家。もうここまでで 大丈夫やから。ありがとう、送ってくれて。」 「いや、まだ結構あるやん。」「これ以上来たら めっちゃ駅遠くなるし終電も無くなるよ。」 「タクシー呼ぶし。」「勿体無いよ、今ならまだ 間に合うのに。」「まだ帰りたくない。」「え?」 「家帰っても寂しいし、もう会えんかもしれやんし マンションの近くまでで良いから相手してもらえん?」 「それ、下手したらただの遊び人の発言やで。」 「家に行ったろうとか思ってないから安心して。」 「わかってるよ。じゃあ、タクシー代ちょっと 出させてな。私も一人になりたくない気分やし。」 「ありがとう。」「それ私の台詞やから。」 そしてまた沈黙が流れる、それは当然のように。 二つ並んだ影が懐かしかった。 あとマンションまで100メートル程のところで 何かが私に触れた。「…え、雨?」「本当や…」 ポツ、ポツポツ、サー…ザザザザーッ ほんの二十秒ほどで信じられないほど雨は 勢いを増して二人の体を冷たく濡らした。 走ろうとする私を引き止めてしゃがみこむと 「はい、後ろ。」と背中を見せた。「え?」 「足、痛いんやろ。急げ、濡れる。」「あ、うん。」 言われるがままおんぶしてもらうとマンションの ロビーの前の屋根の下まで走ってくれた。 おろしてもらうとずぶ濡れのお互いを見て笑った。 「ごめん、ありがとう。」「風邪引くから早く 部屋に入りぃ、俺ももうタクシー呼ぶわ。」 「そんなずぶ濡れでタクシー乗ったら迷惑やろ。 家に一旦入って。シャワーとタオル貸すから。」 「そんなことしたら彼氏に怒られるで。」 「…別れたよ、今日。」「あぁ、やっぱり。」  「バレてた?」「なんとなくやけど。」 「じゃあ何で彼氏に怒られる、とか言うの。」 「一応。彼氏おらんくても付き合ってない男を 部屋に入れるな!何されるかわからんやろ。」 「状況が状況やし。知らん男じゃないやん。 友達やろ?それとも何かするつもり?」 「せんわ。」「やろ?だから入って。」
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