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二人の嘘
家に入ってからはどちらが先にシャワーを浴びるか
でだいぶ揉めた。お互いに譲り合って結局私が先に
浴びることになった。私はまだ浴びるつもりじゃ
なかったのに。学生の時から知ってるとはいえ
今のすっぴんを見られるのは恥ずかしい。
彼は彼でさすがにシャワーまでは申し訳ないと
遠慮したけれどこのままじゃ確実に風邪を引くから
私が入ってとお願いした。タオルで顔を隠しながら
預かったTシャツとズボンを乾燥機に入れる。
彼の着替えには数年前のふざけたバンドTと
学生の時のジャージを申し訳なく渡した。
着れそうなのがそれだけしか無くて。
突然のゲリラ豪雨は外でますます勢いを増し雷も
激しく鳴っていたけれどそれとは対照的な私達。
「…なんか、本当ごめん。」
「私こそ。でも、良かった。
この雷の中一人でおるの怖いもん。」
「今も嫌いなんや、雷。」
「うん…。でも私は良いけどそっちはこんなこと
彼女にバレたら怒られるかな?大丈夫?」
「俺も彼女と別れたばっかり、って言ったら?」
「じゃぁ…良かったわ。」
「うん、大丈夫やから。」
「…もし私が、風邪引くから、とか適当に理由つけて、
本当は寂しさを紛らわしたいだけの最低な女やったら
どうするん?さすがに怒る?」
「それならそれで良いよ。
結果、俺はおかげで風邪を引かんとすんだし。」
「…何でそんな優しいん、昔から。」
「別に、普通。逆に、俺が彼氏と別れたのを
チャンスやと思って弱味につけ込んでるだけの
最低な男かもしれんよ。」
「そんな事する人っちゃうやろ。」
「まぁ…そうやな。でも、今本当は悲しいやろ?」
「全然。平気やよ。」
「泣いても良いで、見てないから。」
「大丈夫やってば。」
「はいはい。」
「また、あの集まり、来る?」
「もう行かんかな。今日が最後。」
「私も、もう行かんと思う。」
「俺等が会えるのも、今日で最後やな。」
「うん。」
そしてまた二人の時間は静かに流れた。
暫くして乾燥機が終了の合図を知らせる。
その頃にはいつの間にか雨も雷も止んでいた。
「今日は送ってくれてありがとう。」
「こちらこそ、会えて良かった。」
「バイバイ、」
「うん、バイバイ。」
長い間見ていなかった携帯には着信が
何件か入っていたけれどかけ直すことはなかった。
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