サマー・クリスマス

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サンタ・アルバイトの話を持ち掛けてきたのは、サムだった。 「もうすぐクリスマスだけどマコト、予定ある?」 「特にないけど…クリスマス?ああそうか、クリスマスだね」 クリスマスのことを忘れていたわけではないし、彼女がいないから忘れ去りたかったわけでもない。嘘、後者はちょっとある。 「丁度良かった!実はサンタ・アルバイトを探しているんだけど、してみない?」 大きな向日葵が咲くような笑顔でサムが手を叩いた。 「サンタ・アルバイト?」 「サンタクロースのアルバイトだよ。まさかマコト、サンタクロースがいるとか、この歳になって信じてた?」 信じてたのならごめん、とサムが本気で申し訳なさそうな表情を見せるので、慌てて否定する。 サンタ・アルバイト。 クリスマス・イブに、割り当てられた家を一軒一軒回ってプレゼントを届ける。仕事としてはそれだけらしい。 しかしサンタのアルバイトというだけあって、神経を研ぎ澄ませて行動することが必要だった。 プレゼントを正しく届けるのはもちろん、その際、子どもたちに素性を知られてはならない。信じていた「サンタクロース」がまさか日本からの留学生、年齢21歳の僕だったなんて知られたら終わりだ。外国人っていうのはちょっと魅力的?いや、ダメだ。 午後8時を回ろうとしているのにオレンジの太陽はまだ空に残っていて、隣を歩いているサムの額には汗が滲んでいる。南半球に位置するこの国においてクリスマスは、一年のうちで最も夜が短い季節だ。サマータイムといって、他の季節よりも標準時が1時間早められている。夜9時や10時にサーフィンを楽しんでいる人も当たり前にいる。「夜が短い」というのも、多くのサンタ・アルバイトが必要な理由みたいだ。 12月24日は日本でいう夏至あたりだなと思った。
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