サマー・クリスマス

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忙しそうなアルバイトだけどサムの誘いをOKしたのは、お金が欲しい、ちょっと楽しそう、どうせ予定がない、以上3つの理由からだ。 サムの誘いは、「マコト!一緒にフットサルクラブに入らない?」と誘ってきたときと同じ軽さで、思わず「いいよ」と言わせる力がある。しかも「ほんっとうに助かる。ありがとう。救世主」なんて言ってくれるから、いい気になってしまう。 長袖長ズボン、黒ブーツ、白いひげという「サンタ協会はなぜ夏バージョンの服も考えなかったのだろうか」という恰好で、サーフィンではなく自転車を漕ぐ。 留学して半年が経つから、土地勘は割とある、ほうだと思う。迷うことなく道を選んで進む。町の住人はひっそりと、でも多少の興奮を兼ね備えたようだ。クリスマスの夜は、不思議な静けさを感じる。 「真夏のクリスマス」の珍しさが、不思議さをより引き立てている。つい数時間前まで太陽がいたという確かな形跡が、熱気を通して伝わってくる。 「あの、すみません」 背後から幼い声が聞こえて、もしかしてバレた?と驚いて振り向くと、僕と全く同じ格好をした人だったので少し安心した。白いひげをまとっているが、よく見ると女性だった。 「サウスフォレスト通りって、この先真っ直ぐで合っているのでしょうか?」 身長差があるので、少ししゃがんで一緒に地図を確認する。「合っていると思いますよ」と返しながら、どこか見たことのあるような顔だなと思った。 「ありがとうございます、助かりました」 お礼を言うと彼女は急ぎ足で去って行った。姿勢の良い後ろ姿が、どんどん離れていく。 残念ながら、ぱっちりとした目に長いまつ毛以外のパーツは真っ白い雲に覆われていて、誰だったかなと考えたが思いつかなかった。
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