サマー・クリスマス

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「ちょっと飲み物を買ってくるけど、マコト、何かいる?」 「いや、大丈夫。ありがとう」 隣の席を空けて待っていてくれたサムと合流すると、「何かあったの?」と聞かれた。「ううん、何でもないよ」と答えると、「そう」とだけ言って深くは追求されなかった(サムのそういうところが好きだ)。その後サムは小声で、可愛い子に話しかけられるなんてラッキーだね、と付け加えた。 おしゃべりな隣人がいなくなると手持ち無沙汰になって、テーブルの上のピザを切って取る。上にパインが乗っているピザは本当に理解できない。別々で食べたほうが美味しいに決まっている。なぜそのピザに手を伸ばすかというと、距離が一番近いからだ。 「こういうクリスマスも楽しいね。いろんな国の人の集まりみたいな」 確かに、普段は交じり合うことのない僕たちが一つの場所でクリスマスを過ごしているのって、感慨深い。 「クリスマスってみんなどういう風に過ごす?」に対しては、家族、と答える人が多かった。 「リアンの家のパーティーとか豪華そう」 「絶対そうだよ。家の大きさも尋常じゃないしね。住み込みのシェフとかもいるんでしょう?信じられない」 「そのうえ美人!せめてどうか、片付けができないとか、欠点があってほしい」 皆の会話が頭の上を流れていく。サンタ・アルバイトのとき、そしてさっきの、リアンの目と去って行くときの後ろ姿が残像のように頭に残って、忘れられなかった。 「あ、でも最近いろいろあったらしいよ、リアンの家。…」 流れていた会話が鮮明になって、急いで席を離れた。この話を聞くことは、リアンとの先ほどの会話と繋がる気がして、つまりそれは彼女との約束をある意味破ってしまうように思えた。 真剣で、どこか切なそうで。髪の毛もアルバイト後のままのようできっちり整えていなかった彼女。いつもの堂々とした自信が、感じられなかったのだ。
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