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目的の駅に着き、改札を出る。
賑やかな人の流れに逆らって歩くと、次第に街灯以外の明かりが目につくようになる。
(提灯、眩しいな……)
それがひとつ、ふたつと消えていく。そして残るのは。
(緑色の光……蛍だ)
光る線を描いて、川の上を蛍が飛んでゆく。
堤防の上からその軌跡をうっとりと眺めていると、背後から声をかけられた。
「綺麗、って思うの?」
声のかけ方、その幼さからしてまずナンパではないだろう。となると。
(犯罪の予感!?)
すかさず振り返る。と、そこにいたのは狐のお面を首にぶら下げ、綿飴の袋を持った、夜空のような藍色の着流しの青年だった。
顔立ちは整っており、長くて艶のある黒髪が風に揺られてさらさらと音を立てている。
けれど、一番印象的なのは――。
(目……すごく綺麗。蛍の光が映り込んで……)
吸い込まれそうな、黒と緑の瞳。
そこに嘘や偽りの色は存在しない。
「祭り、もう終わってるよ。景色でも見に来たの?」
「あ、いや、あ、え?」
確かにその通りだけど、今し方出会ったばかりの美青年に指摘されるとうろたえる。そして毒気を抜かれる。
「なんかそういうの、いいね。悪くない」
目映い瞳を細めて、優しい笑みを向けてくる。
私は返事もできずにただ見とれるだけだった。
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