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漂う静寂に舞う緑の輝きを眺めて、感嘆のため息をつく。
会話は進まない。けれど同じように悩んでいるのかもしれない人間が隣にいると思うと、少し気持ちが楽になる。
「蛍、綺麗」
景色を楽しむ余裕だって生まれる。今のは聞いてほしいからじゃない、ただそう思ったから言った。
「ありがとう」
詮索しないで話題を変えたのが良かったのか、話の流れとしてはちょっとおかしい感謝が飛んできた。
「どういたしまして」
こちらも大人なので、わきまえてる風な返事をする。
「生きてるだけで綺麗って言われるのは、悪くないよね」
何やら満足げに、彼は少し声を高くして語り出した。
「そりゃ、その外見ならね……」
改めて自分の普通さを思い知る。何度鏡を見ても「私だ!」って特徴は見当たらない、本当に普通の顔をしている。
そんな私が拓也と気まずくなってスマホ切って残業してなんとなく祭りに来て若くて綺麗な子と二人で蛍の光が飛び交う夜の川を眺めている。
……改めてなんか変だ。
「でもさ、自分からは見えないよね。本当に綺麗なのかな?」
鏡を見たことがないのかな? それとも美的センスが狂ってるのかな? なんて嫌味をいいたくなるほど綺麗な姿だというのに。
人それぞれの好みはともかく、美しいかそうじゃないかで言えば明らかに美しい青年がそんなことを言う。
「私はともかく、君はどう見ても綺麗でしょ」
自嘲込みで彼の美しさを保証する。
「そっか、それなら……ちょっとは良かったのかも」
ついさっき出会ったばかりで、この先関係が続くかなんてわからないけれど、何が? なんて聞けるほど気安くもなかった。
彼も納得している様子だし、無視する、もとい見守るにとどめる。
「ねぇ、これあげる。お裾分け」
彼は微笑みを浮かべながらそう言って、私に綿飴の袋を押しつけてきた。ピンク色の可愛いそれには、白い猫のキャラクターが描かれている。
プレゼントのつもり、なんだろうか。
綿飴が好きなのは、私じゃなくて拓也の方だったりするけれど。
「あり、がとう……?」
「なくならなければ良いけどね」
確かに綿飴は結構簡単にしぼむけど、そこまで思うほどかな?
「なんか君って妙に悲観的だね」
こちらを向いている彼の表情に痛みが混じり、空気がピリッとしたのを肌で感じた。
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