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家について、玄関に倒れ込む。ああ、フローリングは冷たくて気持ちいい。
そんな私を抱きかかえて、拓也はソファに運んでくれた。
「ごめん」
「いや、俺も悪いし……」
互いになんとなく許し合った私と拓也は、二人で寿司をつついた。
時間が経ってネタはちょっと乾いているが、それでも充分に美味しい。
「ところで柚奈は何買ってきたの?」
デザートだったりする? と無邪気に笑う拓也に、私は後ろめたさを感じながら正直に話す。
「ごめん、明日届くの。……綿飴作るおもちゃ」
「まじ!? え~、かなり嬉しいんだけど!」
やったーと両手を挙げて喜ぶ拓也を見ていると、思わず笑みが零れる。
「うちで綿飴作るのに飽きたらさ、今度はどっかのお祭りに行こうよ。そこでも綿飴買ってさ……」
「いい、いい! それ賛成! 綿飴大好き! ついでに祭りも!」
なんて快活な笑みだろう。
私は青年の儚い笑みを思い出して、すぐに消した。
(綿飴は無くなったけど、折角だから作ってみるよ。ありがとうね、名前も知らない君……)
本当に一瞬、人生が交差しただけだった。けれど彼を一生忘れることができないのは心が理解している。
それでも私が一緒に人生を歩むと決めた人は拓也だから。
(来年は拓也と一緒に、あのお祭りに行くから、ね)
彼には心の中でそう告げて、ぴょんぴょんとはしゃぐ拓也を見守った。
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