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自分一人が残された職場は薄暗くて、スマホの明かりが眼に刺さるようだ。
『柚奈、今日は一緒に夕飯食べるって言っただろ』
『約束くらい守れないのかよ~』
スマホをキーボードの横に置いて、ノートPCの画面に集中する。
ここを頑張らなければ、夕飯には辿り着けないというのに。夫――拓也ときたら。
『最近の柚奈、なんか俺に冷たいよな』
『結婚して安心しちゃった? もしかして俺ウザい?』
着信音が耳を刺す。私――浅木柚奈はスマホの電源を切った。
そうなるといよいよ部屋の暑さが気になる。私一人のためにクーラーをつけておくのは申し訳なくて、年代物の扇風機に切り替えたのだけれど。
まだ六月とはいえ暑いときは暑い。膝裏の湿っぽさに、それを実感する。
「涼しいとこ、行きたいな……」
ノートPCのファンの音がうるさい空間に、私の寂しい声が零れた。
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