今はただ、背中を預けるだけでいい

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 ──わたしは、何を言っているんだろう。  こんなこと聞かされても困るか、面倒くさいと思われるだけなのはわかっているはずなのに。口が、脳が、勝手に言葉を吐き出していく。 「知ってます? わたし、『幽霊ちゃん』って呼ばれてるんです。誰もわたしを見ないしわたしの声は聞こえない」  先輩も今だけはそうしてくれたらいいのにな。と、ぼんやりと遠くで思ったけれど、口は止まらない。 「ねえ、今ね、思うんです。本当になっちゃおっかなって」  顔を上げると、生温い水滴が目からぼろぼろとこぼれていった。それは途切れなくて。何も……見えない。 「わたしがいなくなっても、困る人はもういなくなったんですから」  ──それは一瞬だった。 「困るよ」  わたしの言葉を(さえぎ)るか遮らないか……そのくらい。 「……え?」 「困るよ。僕は困る」 「なんで」と、なぜか聞けなかった。けど聞かなくても、その言葉はまるで当たり前だとでもいうように実にスムーズに耳に届いた。 「僕は君が好きだから」  雑に涙を拭って、見えた先輩の顔は真剣そのものだったように思う。   いつも見る「王子」のような柔らかな眼差しも笑みもどこにもなかった。きっとそこには、ただの「恋をした男子高校生」がいた。
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