4人が本棚に入れています
本棚に追加
──わたしは、何を言っているんだろう。
こんなこと聞かされても困るか、面倒くさいと思われるだけなのはわかっているはずなのに。口が、脳が、勝手に言葉を吐き出していく。
「知ってます? わたし、『幽霊ちゃん』って呼ばれてるんです。誰もわたしを見ないしわたしの声は聞こえない」
先輩も今だけはそうしてくれたらいいのにな。と、ぼんやりと遠くで思ったけれど、口は止まらない。
「ねえ、今ね、思うんです。本当になっちゃおっかなって」
顔を上げると、生温い水滴が目からぼろぼろとこぼれていった。それは途切れなくて。何も……見えない。
「わたしがいなくなっても、困る人はもういなくなったんですから」
──それは一瞬だった。
「困るよ」
わたしの言葉を遮るか遮らないか……そのくらい。
「……え?」
「困るよ。僕は困る」
「なんで」と、なぜか聞けなかった。けど聞かなくても、その言葉はまるで当たり前だとでもいうように実にスムーズに耳に届いた。
「僕は君が好きだから」
雑に涙を拭って、見えた先輩の顔は真剣そのものだったように思う。
いつも見る「王子」のような柔らかな眼差しも笑みもどこにもなかった。きっとそこには、ただの「恋をした男子高校生」がいた。
最初のコメントを投稿しよう!