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「僕は君が好きだから」
……言うつもりはなかった。でも、「あ──」と、思う頃には口から出ていた。
頬が熱い。心臓がドクドクと音をたてているのがわかる。
一方、「美幸ちゃん」はというと、さっきまでの様子はどこへやら。こちらをきょとんと見つめ、固まっている。
「へ……?」と、呆気にとられながらも滲み出た彼女の涙をつい拭おうとして、僕はハッと手を引っ込め、近くにあったティッシュを手渡した。
美幸ちゃんは会釈をしてそれを受け取って、涙を拭き、鼻にあてて──そそくさと背中を向けて縮こまった。
鼻くらい普通にかめばいいのに。と、フッと笑ってしまった。
そして直後、その右手に赤く手の痕がついているのが目に入って、顔が引き攣った。
──さっき、思いきり握ったからなぁ……。
前のことがあるから触れるのには一瞬迷ったけど、感情に任せて物を壊すのはよくないし、下手をすれば投げ捨てることで怪我をするかもしれない。だから止めた──のだけれど。
あれ? もしかして怪我にカウントかな……?
僕は、美幸ちゃんが振り返るまで視線を泳がせ続けた。
振り返ると、なぜか脂汗をかきながら視線を泳がせる先輩がいた。
「……どうぞ」
「……ありがと」
ティッシュを差し出すと、気まずそうに汗を拭いた。
そして視線の先がどこか気づいた。
……ああ、腕だ。
全然気にしてなかったが、よく見れば赤い手形がついている。あざになるとまではいかないだろう。と、いう程度の赤みだ。すぐに引くだろう。
しかし先輩は後ろめたいのか視線を明後日の方へ向けている。
……正直、今それをしたいのはわたしの方なのだと言いたかった。
どこか遠くへ行ってしまいたくて。何も考えたくなくて。でも現実はやっぱりそこにあって──逃げられない。
目の前の、必死な優しさからも。
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