今はただ、背中を預けるだけでいい

15/20
前へ
/20ページ
次へ
 翌朝も雨だった。  自分の傘を探して、家には無いことに気づいた。傘がどこにあるか考えて、不謹慎にも僕はニヤニヤしながら予備の傘をさして登校した。  その日はいつもとは違った。  彼女は駅の中で、居心地悪そうに2本の傘を持って、時折改札を見つつうろうろしていた。片手に傘を持った僕を見て、彼女はムッと不服そうにわずかに眉間にしわを寄せた。  ささやかな不平不満の意識表明のつもりなのか、彼女は僕が行くまで動かなかった。 「……これ、忘れ物です」 「っ……ありがと」  噴き出すのをこらえながらもくつくつと笑う僕を、彼女は苦虫を噛み潰したような顔で見つめていた。  昼休みが終わり、5時限目。  口には出さなかったけれど、わたしはいまだに胸の内でムカムカと文句を垂れ流していた。  なんだよ。早起きして持っていったのに。  いつもよりも1時間も早く起きて、ほとんど行ったことのない駅に行ったのに。自分と同じ制服の生徒に時折不思議そうな顔で見られるのも我慢して待っていたのに。  言い出したらキリがない。実際キリがついていない。  わたしは深い深いため息をついた。理由は先輩への文句のせいだけではない。今は体育中で、バドミントンのペア練習。もちろんわたしと組む人はいない。  ラケット片手に、練習をするクラスメイトを少し離れたところからぼーっと見つめていると、先生から「体調が悪いなら保健室に行きなさい」というありがたいお言葉をもらったので、素直に保健室へ向かう。 「失礼します」と、声をかけたが中には誰もいなかった。丁度席を外しているらしい。  ……ねむい。  早起きをしたせいか睡魔が容赦なく襲ってくる。幸いベッドは空いていることだし、少し仮眠をとらせてもらおう。  ベッドに入ってうとうとしていると、不意に扉の開く音がした。先生だろう、と決めこんでわたしは重い目蓋を下ろす。  それがいけなかった。  次に目蓋を開けた時には、わたしの首は力一杯絞められていた。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加