今はただ、背中を預けるだけでいい

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「助けてくれてありがとうございました」  初めて見た美幸ちゃんの笑顔だった。  僕は思った。  なんでそんなに平然としていられるんだ──って。  でも表情の動きを追っていくと、その笑顔の裏には色んな感情が無理矢理丸めて押し込んであるように見えて。僕は気づいたら泣いていて、またもや情け無い姿を晒して彼女のに甘えてしまった。  リビングに通されて、僕達はカーペットの上に腰を下ろした。 「ごめん……」 「しつこいですよ」 「だけど……」と、続けようとすると、ティッシュを渡された。  遠回しに黙れと言われたみたいだ……。    僕は改めて正面に座る彼女を見た。  手の跡が、白い首に赤くくっきり残っていて痛々しい。顔の腫れは応急処置が早かったからかそこまで目立ってはいないけれど、痛いだろう。 「痛かったよね……。……怖かったよね」 「あのですね、先輩のことなら別に──」 「僕じゃなくて!」  僕の顔を見て察したのか、美幸ちゃんは逡巡して、でもやっぱり「怖くなかったですよ」と、答えた。  美幸ちゃんはボソリと呟いた。 「初めてじゃないので」、と。  本当に、今回の件は怖くはなかった。……びっくりはしたけど。 「初めてじゃないので」  そう。初めてじゃない。……首を絞められるのは──。  お母さん──。不倫が発覚してそうたたない頃だった。「あんたなんか産まれなければ」って。  ……あの時は、怖かった。  自分はいらない子なんだ──って思い知るのが、1番怖かった。
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