今はただ、背中を預けるだけでいい

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「あ……」  少しひしゃげたロッカーを開けようと奮闘するわたしの足元に、プリントが1枚。  ──季節は初夏に入りたて。1年生はやっと学校生活に慣れ始め、3年生は進路関係に追われる。そんな季節。  わたしはため息をつき、プリントを拾った。  いつもは絶対に足を踏み入れない校舎の廊下を気持ー……ち縮こまりながら進む。肩身が狭い。  3のA。藤崎佑助(ふじさきゆうすけ)進路表の持ち主──。さっさと届けてさっさと戻ろう。そう思い、教室の入口に立っていた男子に「あの」と、声をかけた。 「およ? なんか用事?」  振り返ったその人はいかにもチャラそうな見た目をしていて、色素の薄い髪をヘアピンでとめ直している最中だった。  ……もっとちゃんと人見てから決めればよかった。などと、失礼ながら後悔しつつ進路表を両手で差し出した。 「これ。藤崎佑助って人に渡してくださ──」  わたしの言葉尻を切るように、その先輩は教室の端に届くような大声でわたしの望みを叶えてくれた。 「おーい! 佑助! お客さあん!」
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