交わす言葉、交わる想い。

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(え? ちょっと待って、どういうこと?)  疑問は多くあるが、とりあえず一番不思議に思ったことを聞く。 「ですが、その……ご婚約者様は? かのお方を愛しているのではないのですか?」  そう。龍は一途で、一人を愛しぬく。竜輝のその一人は婚約者ではないのだろうか。  ずっとそう思ってきたのだが、竜輝ははっきりと否定した。 「俺が愛しているのは梓だけだ」 「っ!」  少しムッとしたように断言され言葉を失う。  好きだと、愛していると言われて胸が熱くなった。 「その……婚約者は砂羽の妹なのだが、彼女は俺にとっても妹のような存在なんだ。家族愛に近い愛情はあるが、異性に対してのものではない」 「……」  続けられた言葉に絶句する。  婚約者が決まったと聞いたときから、竜輝の想い人はその婚約者なのだと思っていた。  だが、彼の言うことが本当ならば自分の勘違いということになる。 「周囲が仲が良いから丁度良いと言って勝手に決めてしまったんだ」 「……」  どうやら本当らしいと知り、尚更言葉が出なくなった。 「その翌年の年始めの挨拶のときに梓に会えたら、事情を説明し想いを伝えて求婚するつもりだった」 「え⁉」  言葉が出ないと思ったが、予想もしていなかった話に驚きの声を上げる。 「そして梓さえ良ければ周囲にそれを話して、従妹との婚約を解消し梓を婚約者にするつもりだった」 「それは……」  今度は別の意味で言葉が出なくなる。  それでは、勘違いせずまた彼に会いに行っていれば自分の願いも叶っていたということだ。 「だが、お前とは会えず俺は嫌われたのだと思った」  だからその後竜輝の方からも連絡を取ろうとはしなくなったらしい。  招が竜輝に仕えることをとても喜んでいたこと、時が経ち婚約を解消するのが更に難しくなってきたこと。  それらの理由もあって、このまま想いを封じてただ龍としての役目を果たそうとしていたのだそうだ。  どうやら、自分達はお互いに勘違いをしていたようだ。 「……私が竜輝様を嫌うなど、ありえません。初めてミズメの木の庭で言葉を交わしたあのときから、私は竜輝様が好きなのですから」  全てを話して求婚してくれた竜輝に、梓も想いを返す。  互いにしていた勘違いを無くすために、言葉を重ねる。 「竜輝様の婚約者が決まったと聞いて、あなたの想い人はそのご婚約者様だと思いました。……だから会うのが辛かったのです。ご婚約者様に優しく微笑む竜輝様を見たく無かった」 「俺の想い人は梓だけだ」  梓の言葉に竜輝は強くはっきりと主張する。  そんな彼に、梓は泣きたくなるくらいの嬉しさを覚え微笑んだ。 「……はい。竜輝様、どうやら私達は互いに勘違いをしていたようです」 「……そのようだな」  梓の言葉に同意した竜輝も仕方なさそうに微笑む。  そうして一度目を閉じると、また真剣な目で梓を見つめた。
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