206人が本棚に入れています
本棚に追加
一通り話を聞いた竜輝は何とも複雑な表情をしていた。
呆れているような、困り果てているような……微妙な表情とでも言うべきか。
「だが覡として来ずとも……。そのような状況なら言ってくれれば梓を巫として受け入れたというのに……」
「すみません……竜輝様にはご婚約者様もいらっしゃいますし、ご迷惑にしかならないだろうと両親も言いまして……」
だが、結局は梓が巫として嫁することになった。
余計な手間が増えただけという結果になったとも言える。
「竜輝様のおっしゃる通りですよ。梓殿が普通に花嫁として仕えに来てくれれば、すぐにでも丸く収まったというのに……」
なにやら色々と知っているような砂羽の言葉に、竜輝は軽く睨むようにして問い質した。
「砂羽、お前は何を知っている? 何を画策していた?」
「画策とは……少々暗躍していただけですよ」
(……言葉の意味は違うけれど、裏で動いていたことは同じなんじゃ……)
会話を聞きながら思う梓だったが、砂羽に睨まれそうだと思い口には出さない。
「それに責められる謂れはありません。私は竜輝様の恋の成就のために行動したまでですから」
そうして語られた話は梓にとっても驚きだった。
竜輝の想い人が梓だと知った砂羽は、主の恋を叶えるため何とかして梓を巫として嫁いで来させようと動き始めたらしい。
するとその動きを知った彼の妹……竜輝の婚約者である玲菜が協力を申し出てきたのだそうだ。
「玲菜が?」
軽く驚く竜輝に、砂羽は少し皮肉交じりの仕方なさそうな笑みを浮かべた。
「どうやら妹は、他に想う相手がいたようです」
そしてその相手というのが招だというのだ。
流石に梓も言葉を失った。
みっともないと思いつつも、ポカンと口を開けた状態で続く話を聞く。
玲菜の話では、初めて招に出会った五年前に一目惚れをしたということだった。
招もほぼ一目惚れだったらしいという話を聞いて、梓は何とも言えない血の繋がりを感じてしまう。
それからというもの手紙のやり取りをして、お互いに想いを育んでいたのだとか。
招の方は主の婚約者と想いを交わすなど、と悩んでいたそうだが、今回竜輝の想い人が梓だと知り気落ちしつつも喜んでいたらしい。
そういうわけで、招は今玲菜と共に彼女の別荘で計画成功の報を待っているのだとか……。
「……」
まさかまさかの思いもよらない展開に、竜輝も何とも言えない苦い表情をしていた。
(……招、ご婚約者様の――玲菜様の別荘にいたのね……そりゃあ見つからないわけだわ)
梓は変わらずポカンとした表情のまま納得する。
そんな二人に砂羽はまた深いため息を吐いた。
「招殿がいなくなれば梓殿が巫として来るしかなくなります。だからこちらは梓殿を花嫁として迎える準備を水面下でしていたのですが……」
そこで言葉を止めた彼はジトリと梓を睨む。
「まさか男装して招殿の身代わりで来るとは……予定外にもほどがあります」
「す、すみません……」
砂羽の計画など知らなかったから仕方のないことなのだが、恨めし気な彼の視線に梓はつい謝罪の言葉を口にした。
「まあ、それでも巫が覡としてお役目を全う出来るはずがありませんからね。様子を見ることにしたのです」
その結果が今の状況ということらしい。
最初のコメントを投稿しよう!