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龍見家の本邸は基本的に和室だが、寝室に使われている場所は洋室の方が多いらしい。
以前は和室だったと思うのだが、改装したのだろうか。目の前の竜輝の部屋も洋室の様だった。
深く呼吸をした後、その洋室のドアをノックしようとした梓の手が止まる。
しっかり閉められていなかったのか、僅かに開いていたドアの隙間から話し声が聞こえてきたからだ。
「……招殿ではなく梓殿だった、と?」
竜輝の部屋から聞こえたのは砂羽の声だった。遅くなると聞いていたが、もう用事を終えて帰って来ていたのだろうか。
「ああ……今思えば何かと触れてくる手も男のものとは思えぬほど柔らかかったし、声も男にしては少し高めだった」
「……」
会話の内容に、盗み聞きだと思いつつも去ることが出来なかった。
竜輝は梓のことを家の者に言いふらしてはいないようだったが、流石に従兄でもある側近の砂羽には話しているようだったから。
彼らの会話が自分の処遇を決めるかも知れないと思うと、聞かずにはいられなかった。
「……事情は聞かれたのですか?」
驚いた様子もなく淡々と問う砂羽に、竜輝は「いや」と否定の言葉を口にする。
「どうすればいいのか疑問ばかりが浮かびどうすることも出来ず、とりあえず仕事を片付けなくてはと書類に目を通していた」
「はぁ、それでこんな時間まで問い質すこともせずにいたと?」
「……」
どうやら竜輝はあの後からずっと仕事を続けていたらしい。
仕事をする主人を放置してしまったと申し訳なく思った。
「……とにかく話を聞かないことにはどうも出来ないでしょう」
ため息交じりの砂羽の言葉に、竜輝は「そうだな」と同意する。
そうして衣擦れの音が聞こえ、ドアの方に移動してくるのだと気付いた。
このままでは盗み聞きしていたことが知られてしまう。
慌てた梓はとりあえず一度自室に戻るべきかと判断してドアから離れようとした。
だが、踵を返そうとしたその時部屋の中で異変が起こる。
ドッと、人が倒れ込むような音。そして――。
「竜輝様⁉」
先ほどまで淡々と話していた砂羽の焦りを含んだ声に異常さを感じた。
「うっ……ぐぅ……」
苦し気な竜輝の声と共に、また地が揺れる。
体感なので正確ではないが、昼よりも揺れが強い気がした。
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