秘めた思い

1/2
前へ
/20ページ
次へ

秘めた思い

《招はまだ見つからない》  仕事の合間に見た両親からの返事を読み梓は嘆息した。  神和ぎとして龍見邸に勤め始めて早二週間。  初め冷たそうだと思った砂羽も予想していたほど厳しくはなく、しっかり側近としての仕事を教えてくれた。  そのおかげで小さな失敗はあれど、つつがなく竜輝の側にいることが出来ている。  だが、やはり霊鎮めのために肌に触れようと思うと中々上手くはいかない。  とりあえず一番触れやすそうだと思い手を握ってみたが、やはり驚かれてしまった。  だが咎められたり嫌がられたりということはなかったのでもう少し踏み込んでみたところ、流石に「少し触りすぎではないか?」と注意されてしまった。  不快にさせているのならば触れるような真似はしたくない。でも、一日に数回手を握る程度では霊鎮めが出来ている様には思えないのだ。  竜輝の髪と目の色が戻るどころか、鱗の一つも消えてはいないのだから。  だが本来の覡ならば触れなくても出来ること。  自分が覡ではなく巫なのだと打ち明けるわけにはいかない身としては、多少強引でも今の状態を続けさせてもらうしかなかった。  でなければ、竜輝は姿を完全に龍に変えこの地からいなくなってしまうのだから。 (竜輝様がいなくなってしまうなんて、そんなのは嫌!)  例え想いが通じなくとも、竜輝が二度と会えない場所に行ってしまうのだけは嫌だった。  そうなる可能性を考えただけで、泣きたくなるほど胸が苦しくなる。  その思いのままに「私に触れられるのはお嫌ですか?」と問い返した。  竜輝は「いや……」と一言口にしただけで、明確な拒絶はしなかったため今も極力触れることは出来ている。  その事に安堵したが、やはりいつまでも続けられることではないと思った。  何より、霊鎮めのためとはいえことあるごとに触れていると、彼への思いが募ってしまう。  少しひんやりとする竜輝の肌に触れ温めると、自分の熱が彼に移ったかのように錯覚する。  移った熱と共に、自分の想いが届けばいいのにと思ってしまう。  でも届きはしない。今の自分は男であるべきだし、竜輝の心は自分ではなく彼の婚約者に向けられているのだから……。  それを思うと、どうしようもなく胸が妬けつく。  やはり会わなければ良かった。そうすれば想いを封印したままでいられたというのに。  初めて竜輝に会ったときのことを思い出す。  招が十歳になる頃の年始め、顔合わせのためにと初めて竜輝と対面した。  梓は招のついでではあったが、共にこの屋敷の客間に通され彼を見たのだ。  まだ十二と幼さが残る顔立ちではあったが、龍故か神秘的な美しさを持った彼は年齢よりも落ち着いて見えた。その姿には畏敬の念すら覚えたものだ。  忘れはしない。  客間で対面した後、大人たちの話がつまらなくてこっそり庭に出て……そして竜輝と直接言葉を交わしたのだ。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

198人が本棚に入れています
本棚に追加