募る想い

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 とはいえ、今はそんな喜びよりも竜輝に疲れを取ってもらう方が重要だ。  食べさせろというのならば、そうして差し上げようではないかと梓は小皿に乗っている抹茶味のかりんとうを一つつまむ。 「……では、どうぞ」  言う通りに食べさせようとする梓を見て少し驚いた様子の竜輝だったが、自分で言った手前もあるのだろう。素直に口を開けた。  だが、そうなると今度は梓の方が緊張してしまう。  つまんだかりんとうを彼の形の良い唇に運ばなくてはいけないのだ。  待ち構えるように開けられた口からは舌も見えて、僅かに伏せられた長い睫毛が影を落とす。  その様子に妖艶さすら感じ、どぎまぎしてしまう。  今更ながら躊躇うが、竜輝をそのまま待たせるわけにもいかない。  緊張が伝わってしまわないように恐る恐る口に運ぶと、ぱくりとかりんとうが食べられた。 「っ⁉」  その際、僅かにだが梓の指が竜輝の唇に触れる。  柔らかさに驚きサッと手を離す梓に、竜輝も少し驚いてしまったようだ。  目が合い、それがまた恥ずかしい。 (っ! 駄目。招なら……男ならこれくらいで動揺したりしないはず)  自分にそう言い聞かせるが、早まる鼓動は全く収まる気配がない。  このままでは駄目だ。きっと今の自分は女の顔をしている。 (せめて表情を見られないようにしないと)  そう思い竜輝から視線を逸らしたときだった。 「うっ……くぅっ……」  竜輝の苦しむ声が聞こえ、逸らした視線をすぐに戻す。  同時に、僅かだが地が揺れた。 「え? 地震?」  立っていても分かるという程度。おそらく震度2くらいだろう。  最近多い地震だが、いつもこれくらいですぐに収まる。  地震は大したことはないと判断した梓は、竜輝の側に寄り彼の様子を確かめることを優先した。  案の定地震はすぐに収まり、同じくして竜輝の苦しみも治まったようだった。  ……ただ、彼の頬を覆う鱗が一つ増えていた。 「っ!」 (そんな! 荒御霊が鎮まっていない⁉ たまに触れる程度では駄目ということ?)  絶望に似た気持ちで息を呑む。  すると息を整えた竜輝が戸惑いの声を上げた。 「何故だ? 御霊が鎮まっていない……招、お前がいるのに……」  疑惑の声と共に間近で顔を覗き込まれる。  探るような眼差しが、何かに思い至ったように揺れた。 「まさか……梓?」 「っ!」  言い当てられ、弾かれた様に竜輝から離れる。  見上げてくる竜輝の目が大きく開かれ、確信を得られてしまったことを知る。 (しまった。すぐに否定するべきところだったんだ)  後悔してももう気付かれてしまった。  今更否定したところで確かめられては結果は同じ。  もう、招の振りは出来ない。 「っ! 失礼します!」  今はどう対応するのが正しいのか分からず、梓は竜輝の前から逃げ出した。  自室に飛び込み、どうすればいいのかを考える。  両親や宗次に連絡を取ろうと試みるも、すぐには返事がなく電話にも出ない。 「どうしよう……本当にどうすれば……」  気ばかりが焦り考えがまとまらない梓は、そのまましばらく自室にこもっていた。
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