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「……なに言ってるか、わかってんの」
「お前はわかってんの。俺が、なに言ってるか」
よくわかる。そう思った。
だってそれは、自分が本穣を思うのと同じだったから。
だけど、やっぱり違った、気の迷いだった、なんて言われたらもう立ち上がれなくなりそうな気がして
「でも勘違いかもしれないぞ。本穣モテるから、女の子あしらうの面倒になって、それで」
なんてヘラヘラ言ったのに
「お前のこと抱きたいって思うのに?」
と、静かだけれどきっぱりとした強い口調に遮られ、それ以上言えなくなった。
二人の間の静けさが、突き刺さるようだった。
男の本穣が、男の俺を抱きたいと言った。
俺はそんな本穣を気持ち悪いなんて思えなくて、むしろ嬉しくてたまらなくて、やっぱりこの感情は紛れもない恋心なんだと自覚してしまって
「なに言ってるか、ほんとにわかってんのかよ」
と、もう一度訊ねた。
涙声になりかけてる俺に、本穣は
「わかってる。拓深のこと、好きなんだって」
「お前、バカだな……大学行ってんのに」
「拓深だってバカだろ。俺のこと、好きなくせに」
本穣はそう言うと、今まで見た中で一番優しくて、一番色気のある顔で笑って、男の俺のことを、きつく抱きしめた。
夏の夜闇に紛れて、紛れもない恋心が重なった。
end.
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