紛れもなく

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こんなにドキドキするの、いつぶりだ。 シャツの肩を摘んで位置を直した。今年買ったばかりで、着るのはまだ二回めだから馴染み切らない。 待ち合わせのコンビニはあいつの実家からも程近いところにあって、高校時代にもよく来たから懐かしい。 店の角で待っていた俺は、入り口にある虫除けの機械から聞こえたバチッという音に妙に驚いて、ビクッと体を震わせた。 夕闇の中で青く光る電気は、虫たちにどう見えるんだろう。その短い命を落とすことになっても、綺麗だ、と触れてみたかったのだろうか。 車の外に出ているせいか、驚いたせいか、ジワリと汗が浮かんだ気がして、襟元を摘んで匂いを嗅いでみる。 臭いとか思われたら最悪だ。 けど、シャワーを浴びたあとだから、汗の匂いなんてしなかった。 それでも、ホッとできたのは汗臭くないことにだけで、こんな日のこんな時間に誘われた事実には、全くホッとなんてできなかった。 するだけ無駄な期待だとわかっていても、心が勝手に騒ぎ出して落ち着かない。 「拓深(たくみ)」 背後から聞こえたのは自分のより低く大人びた声だったけれど、数ヶ月ぶりでも、すぐにあいつのものだとわかった。振り返ろうとするだけで俺の心音は大きくなるだなんてこと、知りもしないだろうあいつの声だ。 なんで後ろから来るんだか、と思いつつ、正面から来られてもそれはそれであれか、と納得して振り返る。 「よお」 あれこれ考えていることなんか見せるつもりもなく体を反転させたはずなのに、少しよろめいた。 緊張しているのが、自分でもよくわかる。
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