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中身は空っぽだった。時々暗くなる照明の光を、箱の底の木目が跳ね返している。
馬鹿にしている。
そう思った瞬間、一陣の風が巻き起こり、熱気に沈んだ夜の街を駆け抜けた。空気が男の肌を優しく撫で、その涼しさに一瞬だけ暑さを忘れた。どこかで風鈴がちりんと鳴って、男ははっとした。踊り場の向こうに消えた頭のてっぺんを思い返した。
〝秋〟はまだ姿を見せない。だが、すぐ近くまで来ている。俺がこの地で過ごすのもあとほんの少しの間だろう。木箱に蓋をして、男は部屋に戻っていった。
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