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 関東から南の都市へ数時間で到着する列車から降りて、一時間弱。  何故、こんな所に来てしまったのか。  少年はぼんやりと線路を見下ろして、立ち尽くしていた。  自分が仕えている当主から、すぐに家を出て近くの駅に向かい、そこから列車を乗り継いでとある土地の、とある家に手紙を届けるようにと言われ、身支度も言われるがままに整えて家を出たのが、昨日の夕方だった。  指定された深夜列車に乗るために、指定の駅まで辿り着くまでは怒涛で、何も考える暇がなかったが、指定の寝台列車の席に落ち着いてから、色々と考えたがどうしてもこの行動の理由が、分からなかった。  一昨日の仕事で、自分が大失敗してしまった事は、よく分かっている。  そのことで愛想をつかされて、家を追い出されるのならば、仕方がないと思っているが、それにしては周囲が静かすぎた。  あの失敗のせいで、当主に何が起きてしまったのか分からなかったのだが、昨夜に指示を持って来た者から、その無事を聞けたのはほっとしたが、この指示の意図が全く見えなかった。  その意図らしきものが見えたのは、目的の駅に着いた時だった。  ホームに降り立ち、出口を探していた少年に、不穏な気配が襲い掛かったのだ。  振り返ったその先で、ガマに似た生き物が動きを止め、すぐにどこかに去っていく。  その正体に心当たりがあり、呆然とその姿が逃げていくのを見送ってしまった。  あれは、一族でよく使われる、呪いものだ。  立ち尽くした少年は、次に襲い掛かるそれから逃げるように、ホームに止まっていた列車に飛び乗ってしまった。  目標を見失って主の元へ戻るそれを、走り出す列車の中から見送りながら、少年は絶望した気持ちに沈んでいた。  自分よりも一つ年上の当主は、厳しいながらも自分を弟のように可愛がってくれていた。  だがそれは、仕事を滞りなくやり遂げていたからで、先日の失敗は見限る理由として、妥当なものだった。  家から遠い場所に使いに出し、誰も知らない場所で呪い死なせようと思う程、あの失敗は許されない事だったのだ。  家を追い出されるだけならまだしも、生きる事も許されない程に。  ぼんやりと外の風景を眺めていた少年は、そこまで考えて我に返った。  そこまでの大失敗をしたのだから、最期位は命令をきちんと成功させなくては。  そう思い立って次の駅で降りようと思ったものの、中々駅に停車しない。
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