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 ぼんやりと見上げる少女を見下ろした若者は、周囲を気にする様子なく何やら刃物を取り出した。  見た事のない形の刃物に目が言っている間に、静を拘束していた物を断ち切り、倒れ込む体を受け止めて後ろにいた女に引き渡した。 「後、頼む」  久し振りのぬくもりに我に返った静は、振り返って暴動の首謀者の引き攣った怒りの表情を見た。  怒号の命令を吐く。 「全員まとめて、撃てっ」 「やめた方がいい」  無感情な声が、やんわりとその命令を断ち切り、続けた。 「あんたの仲間たちの頭が、一瞬で飛んでしまう」 「な……」  顔を歪めた恰幅のいい首謀者は、司令官が合図を送る手を止めたまま、執行者たちを呆然と見つめているのに気付いた。  一様に引き攣った顔の彼ら全員、銃口を囚人に向けていなかった。  己の口の奥深くその銃口を突っ込み、引き金に指がかかった状態で固まっていた。 「全員と言うのが、その人たちの事なのなら、止める理由はないけど。部下を大勢失いたくないなら、無駄な動きはやめるんだな」  言いながら処刑場の高みから飛び降り、真っすぐに歩き出した。  驚愕の表情で固まった、首謀者の方に。  民衆が二つに割れ、若者の行く道を無言で作る様は、何かの言い伝えを連想する光景だった。 「さ、君はお医者さんに診てもらおうね。よく、頑張った。偉いよ」  光を淡く吸い込む薄色の金髪の後姿を見送っていた静は、優しくそう呼びかけられ、支えてくれている女を見上げた。  父親と同じ黒髪の、綺麗な女性が優しく微笑んで見下ろしている。  その後ろに、安堵した数年来の友人の顔を見つけ、本当に助かったのだと実感した少女の緊張は、そこで切れてしまった。  随分取り乱し、その後眠り込んでしまったらしいのだが、全く覚えていない。
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