ロッキングチェアは優しく揺れる

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「ユキエさんが帰ってくるからだよ」 『ユキエさん』とは、僕が幼い頃に亡くなった母のことだ。 「えっ! 母さんが帰ってくるの? 本当?」  大好きなすいかを食べる手を止めて、僕は父に視線を送った。 「お盆には、必ず帰ってくる。その時に迷わないように、ここにロッキングチェアを置いておくんだよ」  僕は、父の言葉に妙に納得した。 「そっかぁ。じゃあ、今日は母さんに会えるまで、寝ないで待っておくよ」 「じゃあ今夜は、ロッキングチェアが見えるように、布団を敷くか」 「布団なんて、いらないよ! 寝ないで待つんだから!」 「それはいいけれど、いつまでも縁側にいたら、蚊に刺されるし、暑いから」  父は、優しく僕を諭すと、部屋の中に連れていった。そして、エアコンをつけると、ロッキングチェアが見えるように布団を敷いた。 「布団なんか敷いたら、寝てしまいそうだよ。寝ている間に母さんが来たら、どうしよう」 「大丈夫だよ。もし、寝てしまってもちゃんと『来たよ』って、知らせてくれるから」
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