絶望

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絶望

 それから、何年経っただろうか。ある日、紘さんに言われた。母さんはもう戻ってこない事。紘さんが俺の父親である事。  最初は言っている意味が分からなくて、頭の中が真っ白になった。  紘さんは俺に1枚の写真を見せてくれた。  母さんと、旅行先で撮った記念の1枚。カメラの先にいるのは満面の笑みで写る、母さんの姿だった。  「…」  見た事がない笑顔だった。俺の記憶にある母さんの少しはにかんだような笑い方で。写真に写る母さんは本当に嬉しそうで、気が付いた時には、その写真を破り捨て、紘さんに泣きながら、何かを叫んでいた。  そこからの記憶は残っていない。気が付いた時には、誰も家にいなくて、左頬がジンジンしていた。あとから、紘さんに叩かれた事を知った。  「母さん…」  俺はなんの為に頑張ってきたのか。分からなくなった。でも、同時にもう我慢しなくて済むんだ。とも思った。  これからは、嫌なものは嫌と言えるし、甘えたい時は素直に甘えられると思うと、少しだけ。気持ちが楽になったような気がした。  でも、やっぱり。俺は母さんに会いたかった…  その日、夢を見た。母さんは俺の目の前にいる。  「なんで、言ってくれなかったの?もう会えないって」  「…」  母さんは何も答えてくれない。  「母さん…約束覚えてる?」  母さんは何も言わない。  「俺、母さんの作ったご飯!食べたかった!」  俺はその場で泣き崩れて、母さんは何も言わず、俺を見つめていた…  
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