四章 拷問

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四章 拷問

「さて、皆さん。こちらに来てください」 老人はエレベーターで二階に登っていった。阿藤は僕達を階段に誘う。僕達は大人しく階段を登り、阿藤の後に続いて一番奥の部屋に入った。 「ひえっ」 裕美子が声を漏らす。部屋の中は拷問器具で溢れていた。部屋の中央と一番奥は広いスペースがとられている。恐らく、部屋の中央で拷問を行い、部屋の奥でそれを眺めるのだろう。老人は部屋の奥で僕達を待っていた。 「ここに並んで座ってください」 部屋の中央を挟んで老人と対面する形で、僕達三人は座らされる。 「こころちゃん、今日はどれを着てくれるんや?」 「ひ、み、つ! 今日はとびっきりお洒落しちゃいますよ!」 「おおお、たまらん。早よしてくれ」 「はぁい! じゃあ、少し待っててくださいね!」 部屋の中には三つの扉がある。一つは僕達の背後にある出入り口の扉。そして左右に一つずつ。阿藤は右の扉に入り、三十分程で出てきた。 「え!?」 短いツインテール、ガスマスク、セクシーな黒いボンテージ。 「あ、阿藤さん・・・?」 「はぁーい! こころちゃんでぇーす!」 ふくよかな身体に黒革が食い込んでいる。肉体的にも精神的にも変貌した阿藤に、僕は唖然とした。 「こころちゃぁん! それ、儂の一番好きなヤツ!」 「お洒落でしょう?」 「最高! 最ッ高!」 二人だけの世界が出来上がっている。阿藤は左の扉に入ると、首輪を繋げた全裸の青年を連れて出てきた。手には鎖。鎖は首輪に繋がっている。青年は怯えていた。身体はかさぶたと痣だらけだ。かさぶたの出来具合と痣の濃度から、長期間虐待されているのが分かった。青年は身体中傷だらけだが、容姿は整っていた。少し癖毛だが艶のある髪、気怠そうな目、筋の通った鼻、薄い唇。少しだけ、僕に似ている。老人は『そういう趣味』なのだろう。 「おすわり!」 阿藤がそう言うと、青年は犬のように座った。老人の方を向いているので、僕達には背中しか見えない。表情を窺い知ることができないのだ。阿藤は部屋の隅にある棚から赤い紐を取り出すと、青年の腕を後ろで縛った。そしてキャスター付きの三角木馬を部屋の中心に運び、横向きにするとキャスターを固定する。 「乗りなさい」 青年は大人しく三角木馬に跨り、腰を落とす。そして苦痛に顔を歪めた。 「いぎっ・・・ぐぃう・・・いづっ・・・」 阿藤は棚からとんでもない物を取り出した。マチ針の入った箱だ。針を一本取り出し、青年の皮膚を縫うように刺す。 「あああああああああああああああああああああああっ!!」 青年は絶叫を上げた。僕は思わず目を背ける。 「奴隷。お客様が目を背けてるわよ」 阿藤が心底楽しそうに言う。 「ぼ、僕を、見てください・・・。僕の汚らしい身体を見て・・・。お願いです・・・。僕を見てください・・・」 「見てあげないと、おちんちんに針で穴開けちゃいますよぉ」 「ああああああああああ!! 見て!! 僕を見てください!! お願いですううううう!!」 僕は慌てて青年を見た。 「じゃ、二本目いきますよ」 「おっ、お願いしますぅ・・・」 青年は懇願しながらも、決して針責めを望んでいなかった。 「ぎゃあああああああああああああああああああああっ!!」 僕達のように、望まない形でここに来たのだろう。 「あううううううううううううううううううううううっ!!」 何か、脱出する策を見つけ出さねば。 「いぎゃああああああああああああああああああああっ!!」 阿藤は青年のことを奴隷と呼んでいた。 「いううううううううううううううううううううううっ!!」 他にも居るのだろうか。助けるべきだろうか。 「ぐううううううううううううううううううううううっ!!」 阿藤は何度も何度も青年に針を刺した。青年は血塗れだ。乳首は一本ずつ針が貫通し、臍は縫い合わせるように潰されていた。胸から腹にかけて、何十本もの針が貫通している。かさぶたや痣の上にまで針があった。阿藤は先端に十字の金属が着いたバラ鞭を取り出すと、青年の腹を叩いた。 「がああああああああああああああああああああああっ!!」 悲鳴ではなく、咆哮だった。十字が青年の身体を裂き、血が飛び散る。鞭で叩かれた衝撃で吹き飛んだ針が、僕達の方にも転がってきた。阿藤は何度も青年を鞭で打つ。やがて青年は泡を吹いて白目を剥き、痙攣しだした。三角木馬の上で暴れたから尻の穴が切れたのだろうか、尻の方から血が滴っている。阿藤は部屋の隅にある水道でバケツに水を汲むと、青年の顔目掛けてぶっかけた。青年は三角木馬から転がり落ちる。床に落ちていた針が身体の横側や背面に突き刺さった。 「誰が降りていいと言ったのッ!!」 阿藤が青年の顔を蹴る。青年は鼻血を出した。 「あが、あ、も、もうし、申し訳ございませんッ!! 申し訳ございません!! 申し訳ございません!!」 土下座した青年の頭をピンヒールで踏みつける。老人は枯れ枝のような手でぱちぱちと拍手を送った。 「新入りさん、明日から、貴方達も奴隷よ。今日見たものよりもっと痛い責め苦をたくさん用意しているから、今のうちに覚悟を決めておいてね。さて、次は何をしようかしら?」 僕は絶望した。こんな日々がこれから始まるだなんて絶対に嫌だ。何とかして逃げ出さなくては。 「こころちゃん、最ッ高! こころ女王様、最ッ高! 女王様のお顔で蒸れたガスマスク、じぃじ被りたいナ!」 「やだぁ。汗臭いよぉ? おじいさまったら糞ド変態なんだからぁ」 阿藤はガスマスクを脱いだ。遠目に見てもわかるほど汗を掻いている。前髪が汗で額に貼りついていた。老人はガスマスクを被り、膝を叩いて笑った。青年はずっと土下座している。 「ああー、たまらん。生き返るわぁ」 「おじいさま、ちょっとだけよ? 肺に良くないわ」 「構わん構わん! ・・・ゲホッゲホッ!」 「ほら! 言わんこっちゃない!」 と、突然、透が立ち上がって阿藤に向かって突進した。阿藤が吹っ飛ぶ。 「おっ、お前、ゲッホゲッホ!!」 老人の咳が酷くなる。ガスマスクを被ってるから余計に苦しいのだろう。裕美子が僕の背後に回り、ぱつん、とした感覚がすると手が自由になった。 「えええ!?」 「あとで説明するから!」 老人が袖からピルケースを取り出し、ガスマスクを外そうと悪戦苦闘している。 「死ね老害!」 裕美子はピルケースを奪うと遠くに放り投げた。 「ゆ、裕美子! 流石に殺人だぞ!」 「いいんだよこんなクズ! 殺らなきゃ殺られるって!」 透は阿藤に馬乗りになり、阿藤を全力でぶん殴っていた。 「と、透、さん・・・」 鬼の形相だった。いつも陽気で、大事な場面では冷静で、大きな手でカメラという精密機器を慎重に触る透が、歯を剥き出して感情のままに阿藤の顔を殴打していた。 「透ちゃん! いつまでも構ってないで行くよ!」 裕美子が透にしがみつく。透は乱暴に裕美子を振り払い、立ち上がった。尻もちをついた裕美子は腰を擦りながら起き上がる。 「優のことが好き過ぎて頭に血が昇り過ぎちゃったの?」 「やかまし!!」 透の声は裏返っていた。自分を落ち着けようとしているのか、大きく深呼吸している。 「裕美子、一体どうやって結束バンドを切ったんだ?」 「ああ、コレね」 裕美子は折り畳み式の小さなナイフを僕に見せた。 「私ってば美人なうえに白衣の天使でしょ? 変な男に絡まれて嫌な目に遭うことが多いから、護身用に袖に忍ばせてるんだ」 「な、成程、銃刀法違反・・・、あ、いや、なんでもない・・・」 「さて、あの棚に縛る道具があるみたいね。武器もあるかな」 「こいつら見張ってるから取りに行って来てくれ」 老人は力なく腕を垂らして、ぴくぴくと痙攣している。阿藤も動かない。気絶しているようだ。裕美子が棚にそっと近付き、中のものを調べた。そして紐、トンカチ、アイスピック、メスを持って戻ってきた。 「裕美子ちゃんは爺を縛ってくれ。俺、触ったら勢いで殺しかねん」 「もう死んでいるのでは・・・?」 僕の発言は無かったことにされた。裕美子が老人を、透が阿藤を縛る。 「あ、あの・・・」 呆然と成り行きを見守っていた青年が、恐る恐るといった感じで口を開く。 「なんや」 「ぼ、僕も助けてください」 「無理。余裕ない」 「七瀬様の部屋のどこかに、『奴隷契約書』があるんです!」 「七瀬? ああ、この爺さんの名前か」 「七瀬製薬の会長なんだから七瀬でもおかしくないね」 裕美子が老人を縛り終えた。 「『奴隷契約書』が世に出回れば、この人達を刑務所に送ることだってできるかも・・・」 「貴方以外に奴隷は?」 「僕一人です。昨日までは三人居たんですけど、新しい奴隷が来るから『廃棄』するって・・・」 「廃棄?」 「殺して海に捨てるんです・・・」 僕は頭が痛くなった。 「・・・ええやろ、助けたる。でも条件があるわ。お前も縛られろ」 「ど、どうして!? 僕は被害者ですよ!?」 「やかましいッ!! 信じられるかボケッ!! 今ここで殺したろか!! 言う通りにせえ!!」 「ひっ、は、はい・・・」 裕美子が青年を縛る。 「あんたなんて名前?」 「天野です、天野勝」 「天野君、大人しくしててね。あ、針、抜いてあげる」 「はい。ありがとうございます」 透は阿藤の両手を縛るとバケツに水を汲み、阿藤にぶっかけた。 「っ!! ゲホッゲホッ!!」 「お目覚めかいボンレスハムちゃん」 そう言いながら、透はバケツに水を汲む。 「お、おじいさま!! おじいさまが死んでる!! 貴方達、こんなことして、どうなるか分かってるの!?」 透は阿藤の目の前に水の入ったバケツを置き、ニコッと阿藤に笑いかけた。そして阿藤の髪を引っ掴むとバケツの中に突っ込んだ。真顔で。 「俺な、怒ってるねん。だからちょっと離れててな」 僕には優しい声を出して、阿藤の頭を持ち上げた。 「おう、豚。一人も二人も同じやねん。お前も死ぬか?」 「ま、待って! 私は、演じてただけなの! じゃないと酷い目に遭うから・・・。知美も父もおじいさまも、皆、正気じゃなかったでしょ?」 「『奴隷契約書』ってのがあるんか?」 阿藤はびくりと震えた。 「マスコミの手に渡るとまずいんか?」 「し、知らない。私、知らない!」 透は再び阿藤の頭をバケツに突っ込んだ。阿藤が足をばたつかせて藻掻く。 「こいつらに酷い目に遭わされてたんやったら、解放されたいよなあ?」 「さ、されたい! 解放されたい!」 「ほんならこいつらぶっ潰さなあかんよなあ?」 「金庫の番号を知っています! だから許してください!」 ザブン。 「爺の部屋、どこや?」 「一階の、一番奥・・・」 「こいつらぶっ潰せる証拠があるんやったら、俺らに渡せ」 ザブン。 「もう・・・やめて・・息が・・・」 「窒息死って苦しいよなあ。可哀想に」 「お願い・・・私だけは・・・見逃して・・・」 ザブン。 「ん? 見逃すって言うた? あ、利用されてたんやもんな。ほなしゃーない! 見逃したろう! そのかわり、こいつらぶっ潰す材料があるんやったら全部渡すんやで? 分かった?」 「・・・分かり・・・ました」 透は阿藤を水責めから解放した。 「怖過ぎィ!」 裕美子が口元を手で覆う。 「自制した方やで。ほら、立って歩かんかい」 殆ど引き摺り起こすように阿藤を立ち上がらせて、僕達は一階の一番奥の部屋に向かった。会長の七瀬が車椅子だからか、部屋に椅子はない。家具も車椅子が通りやすいよう広めに間隔を開けられていた。書斎机の奥に金庫がある。阿藤は金庫の開け方を口頭で述べた。問題なく金庫は開いた。沢山の紙の束、書類と写真が入っている。写真には拷問されている若い男達の姿や、女王様として振舞う阿藤、その他とても口では言えないようなあられもない姿をした者達が映っていた。 「んー、全部持っていくか」 「いいね」 「・・・その前に、天野とか言うたか、傷は大丈夫か?」 「は、はい。拷問慣れしているので・・・」 天野は未だ血を流しているが、本当に拷問慣れしているのか感性がおかしくなっているのか、けろっとしていた。 「十二月に全裸はまずい。何か着させたろ」 透の一言で、僕ははっとする。感覚が麻痺していてなんとも思わなかったが、天野は裸だった。 「これでいいじゃん」 部屋の入り口のポールハンガーに濃紺の綿入れがかかっていた。裕美子がそれを天野に着せ、紐を結んでやる。 「靴は玄関にあるやろ。さて、夜も更けて来たし、隠れて逃げ出すなら今がチャンスや」 「早く行こう」 「ちょ、ちょっと待ってください!」 天野が声を荒げる。 「その人も連れて行くんですか!?」 視線の先に居たのは阿藤だ。阿藤は黙って天野を睨んでいる。 「こいつにはまだ利用価値がある。だから連れて行く」 「私も同意見で連れて行くに一票」 「・・・僕も」 「え、ええーっ!?」 「ゴチャゴチャ抜かすな! 早よ行くで!」 「は、はい・・・」 玄関に行き、天野に靴を履かせる。そして外に出た。 「まずい!」 駐車場には、車が一台停まっていた。車のライトがついている。僕達は慌てて玄関に戻る。 「全員、後ろに下がれ。入ってきたところを返り討ちや」 玄関の扉は両開きだ。透はトンカチを持って扉の真正面にしゃがむ。二、三分経過した。右の扉が、静かに開いた。透が飛び出していく。 「ひゃああ!?」 「うおっ!?」 なんとも間抜けな声が響いた。 「芙美さん! こんなところでなにを・・・」 扉を開けたのは芙美さんだった。芙美さんは僕達の様子を見て、盛大に首を傾げる。 「えっと、ドライブしてたら道に迷ったので、ここがどこか教えてもらおうと思って・・・」 「・・・ええ?」 「あの、若しかして何かお困りですか? 私の車でよければ皆さん乗ってください」 「あ、ああ、是非! 是非乗せてください!」 「はい。どうぞ」 僕達は芙美さんの車に乗り込もうとした。助手席に見慣れない男が座っている。 「優君、早う!」 仕方なく、後部座席に透と阿藤と天野、座席の足元に僕と裕美子が無理やり座った。 「車、出しますね」 「芙美さん! ホテルに戻らんと、適当に走ってくれへんか? 事情は説明するから!」 「はい。いいですよ」 「ハハハッ、大所帯だな」 助手席の男が軽快に笑った。ロマンスグレーの髪の初老の男だ。 「芙美さん、この人はどなたですか?」 「山田太郎でーす」 男、山田はそう名乗った。 「ほら、前に話した聖さんのお友達です」 「兄ちゃん達、なんで顔面ボコボコのボンテージ女や綿入れ一枚の変態さんを連れてるの?」 「話すと長くなります。信じ難い内容です。実は・・・」 三十分程かけて、僕達は起こった出来事を詳細に伝えた。 「ふーん、大変だね」 山田は興味が無いのか、欠伸を手で抑えていた。 「兄ちゃん達、幽霊とか妖怪とか宇宙人とか信じる?」 「信じざるを得ません。椎名さんが蘇らせた美樹ちゃんを見たら・・・」 「俺も」 「私も」 「ぼ、僕は信じますよ。皆さんの話を信じます」 「私も、実際に見ましたから、美樹ちゃんを・・・」 天野と阿藤も賛同した。 「じゃ、俺の言う通りにしな。そうすれば万事解決さ」 「どうするんですか?」 「二十七人を殺した場所に呼び出す。それだけ」 「それだけって・・・」 「おじさんに任せとけって。それとも、他に策があるの?」 「・・・ありません」 芙美さんが苦笑する。 「皆さん。太郎さんの言う通りにしてください。私達はそれ以上の協力はできません。きっとうまくいきますから。ね?」 「・・・わかりました」 「じゃ、決まりね。芙美、海に向かいな」 「はい」 「そっちの兄ちゃんはお父さんに脅迫電話を掛けな。一人で来なかったら重要書類の命はないぞってな」 「なんだそりゃ」 芙美さんがクスクス笑った。 「阿藤さん、電話番号分かりますか?」 「はい」 「教えてください」 阿藤は頷き、口頭で番号を述べた。僕はその通りにボタンを押し、携帯を耳にあてる。ぷるるるる、と呼び出している音がする。 『・・・誰だ?』 七瀬は警戒していた。 「貴方の息子ですよ、父さん」 『ああ、なんだ。会長に番号を教えてもらったのか? で、どうだった初日は。喉元過ぎればなんとやら、だろ? うまくやれよ。お前にも遺産の何パーセントかは分けてやるからさ』 「会長なら死にましたよ」 『・・・は?』 「ガスマスク被って興奮しすぎて死にました。今、阿藤さんと奴隷の天野君を連れて屋敷の外に居ます」 『ちょっと待て!! どういうことだ!! 何をしてるんだお前!! 今どこに居る!!』 「屋敷の中を探してみてください。書斎の金庫が開いていて、中身が綺麗さっぱり無くなっているはずです。はて、中身はどこにあるんでしょうか?」 『ま、まさか、こころが裏切ったのか!?』 「お? 娘に裏切られて悲しいんですか? 貴方にも父親らしいところがあるんですね」 『ッ!! ふざけるな!! 今すぐ書類を持って戻ってこい!!』 「来るのは貴方です。椎名さんを殺したあの海岸で待ってます。一人で来てくださいね。僕が無事に戻らなかったら、仲間の誰かに持たせた書類と写真が公の場に晒されます。わかりましたか?」 『・・・分かった!! すぐ行く!!』 電話は向こうから切られた。 「脅迫してきた相手を脅迫し返すなんて、優君やるぅ!」 裕美子が親指を立てた。 「ま、どーせ一人じゃ来ないだろ。どうなるかは後のお楽しみだ。それまでは夜のさざ波でも聞いて物思いに耽ろうや。兄ちゃん達、道案内頼むぞ」 「分かりました」 山田がにんまりと笑った。車は二十七人と椎名、美樹ちゃんが死んだ海岸に無事辿り着いた。 「芙美、車はもう少し向こうのほうに停めな。ここじゃ俺達が居るって気付かれちまう」 「はーい」 もう少し走り、車を停める。 「ちょっと、天野君寝てるんですけど」 「あんな責め苦を受けた後や。疲れて寝るのも無理ないわ」 阿藤がビクッと反応した。 「裕美子ちゃん、任せてええか?」 「はいはい。どうせ何を言っても優に着いて行くんでしょ」 「悪いな・・・」 「天野君はいいけどさ、阿藤さんは怖いから連れて行ってよ」 「おう。行くで、阿藤。妙な真似したら頭の骨が折れて脳みそに突き刺さるまで殴るからな」 「は、はい・・・」 透と阿藤が車から降りた。 「芙美。お前もここに居な」 「嫌です」 「我儘だな。嫌な思いするだけだぞ」 「それでも行きます」 「そっか。ならおいで」 山田と芙美さんも車を降りた。 「優」 「ん?」 「行ってらっしゃい」 ありがとう、と言うべきか迷って、 「行ってきます」 と答えた。裕美子は優しく笑った。
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