夏夜の運動会

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「はるちゃん、はるちゃん。こっちにおいで」  優しく懐かしい声に呼ばれた。振り向くと、去年の秋に死んだはずの曾祖母のたえが手招きをしている。 「たえばあちゃん!?」  見知らぬ場所と人。更には鬼まで現れるありえない状況に見つけた、たえの存在に半泣きになりながら駆け寄った。足に飛びつくとたえは少したたらを踏んだが、いつものように優しく頭を撫でてくれる。 「ここどこ? どうしてこんなところにいるの?」 「ここは私らの墓があるお寺さんだよ。はるちゃんはあの人が間違えて連れてきちゃったんだよ。ごめんね、怖かったろ」  たえが指さしたあの人というのはまだ何か文句を言いながらこちらに歩いて来るあの老人だった。たえの着物の布を掴みながら、落ち着いて辺りを見回すと大小様々な墓石が並んでいた。確かにお寺のようだった。  死んだはずのたえとお墓。ここで一つの疑問が陽翔の頭を過ぎり、青くなりながら聞いた。 「……僕も死んじゃったの?」 「あぁ、言い方が悪かったね。はるちゃんはちゃんと生きてるよ。体は寝たまま魂だけ連れて来ただけで、朝になったら夢だと思って目が覚めるから心配しないでね」 「おう、すまなかったな。夏彦にそっくりだったんでつい間違えちまった」  ばつが悪そうに頭をかいて言う老人をたえは睨みつける。 「だからって孫とひ孫を間違える人がありますか。顔も違うし、そもそも年が全然違うじゃありませんか。昔っからせっかちでそそっかしかったですけれど、死んでからも治らなかったんですね」 「だぁ! お前はいちいちうるさいんだよ!」  老人の怒声にも動じることなく、呆れたように息を吐いたたえは思い出したように陽翔に紹介した。 「この人は茂おじいちゃん。はるちゃんのひいおじいちゃんですよ」 「……茂じいちゃん?」 「おう、よろしくな。陽坊」  恐る恐る呼んだら返事をしてくれた。陽翔が生まれる前に死んでしまい、写真でしか知らない茂と話しているのはなんとも不思議な気分だった。
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