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「陽翔、いい加減起きなさい!」
母に起こされ目を開けると何かがはじけるように、消えてしまった。とっても大事だったはずなのに思い出せない。
ぼんやりしているとまた急かされ、のそのそと起き上がった。着替えて居間に向かうと祖父と叔母夫婦も来ていた。祖母がご飯とみそ汁を乗せた盆を運んでいる。
「おはよう」
「久しぶりだな陽翔。ちょっと見ないうちに大きくなったなぁ」
二人に挨拶して両親と共に食卓に着く。陽翔が座ると、叔母が改まって口を開いた。
「陽翔にも報告。おばさんね、赤ちゃんが出来たの。生まれてきたら陽翔も仲良くしてね」
――泣かんでも半年もすりゃまた会える――
「茂じいちゃん!」
頭に浮かんだ声に思わず、その名を叫んでいた。陽翔の様子に大人たちは驚いて目を丸くしている。
「えぇっと、そう! 生まれてくるのは、きっと茂じいちゃんに似た子だよ!」
「……陽翔、茂じいちゃんに会ったことないでしょ?」
不審そうな母の言葉には「たえばあちゃんから聞いたもん」と誤魔化す。それでも確信したような様子に不思議そうにしていたが、楽し気な陽翔に大人たちはまあいいかと別の話に移っていった。
やっぱり茂はうっかりだったと、朝食を食べながら陽翔は思った。きっと茂は記憶を消す呪文を唱え間違えた。だからこうしてあの運動会のことを覚えている。でもバレたら誰かが消しにやってくるかもしれないから、これは陽翔だけの秘密。
だけど今日お墓に行ったら、こっそりと茂にだけ待ってるよと伝えようと思う。まだあのお寺の近くにいる気がするから。
そして茂が生まれてきたら何をしようか。今度は陽翔が年上だから色んなことを教えて一緒に遊ぶのだ。とりあえず今日のクワガタ取りを成功させて、教えられるぐらい上手くなろうと気合を入れた。
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