第一章・ー居眠りー

2/5
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
 夏から秋に変わりゆく、まだ生温い風が頬を撫でる深夜の事だった。  ゆっくりとした足取りで、人通りもすっかりなくなった住宅街の歩道を歩いている。  長い息を吐きながら、今日もついていなかったと、ふと足を止めて空を仰ぐ。  月明かりは頼りなくて、都会の汚れた空気のせいで星空も見えなくなってしまっていた。  ……まるで、ミスを重ねる度に存在が薄くなっていく僕自身のようだと、横手を見て在った暗がりの公園内へと足を向ける。  何故だか今夜は、真っ直ぐ家路に着く気も失せて、適当に歩いて見付けたベンチに腰を降ろした。  コンビニで買った缶ビールを横手に置いて、上司に怒鳴られた午前中。女子社員に白い目で見られ、陰口を叩かれた昼休み。  わざとミスを誘発されて、先輩に残業を押し付けられた午後。  ……これまでの人生、生きていて一つも良い事なんてなかった。  そろそろ潮時かなと思う。  缶ビールのプルタブを開けて、一気に煽ると生温く炭酸が弾ける感触が喉を通って、段々と何もかもがどうでも良くなってきた。  二本、三本目も一気に飲んで、再び長い息を吐く。  太ももに肘をつき、俯いている内に、知らず、涙が地面を一つ、二つと濡らしていった。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!