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夏から秋に変わりゆく、まだ生温い風が頬を撫でる深夜の事だった。
ゆっくりとした足取りで、人通りもすっかりなくなった住宅街の歩道を歩いている。
長い息を吐きながら、今日もついていなかったと、ふと足を止めて空を仰ぐ。
月明かりは頼りなくて、都会の汚れた空気のせいで星空も見えなくなってしまっていた。
……まるで、ミスを重ねる度に存在が薄くなっていく僕自身のようだと、横手を見て在った暗がりの公園内へと足を向ける。
何故だか今夜は、真っ直ぐ家路に着く気も失せて、適当に歩いて見付けたベンチに腰を降ろした。
コンビニで買った缶ビールを横手に置いて、上司に怒鳴られた午前中。女子社員に白い目で見られ、陰口を叩かれた昼休み。
わざとミスを誘発されて、先輩に残業を押し付けられた午後。
……これまでの人生、生きていて一つも良い事なんてなかった。
そろそろ潮時かなと思う。
缶ビールのプルタブを開けて、一気に煽ると生温く炭酸が弾ける感触が喉を通って、段々と何もかもがどうでも良くなってきた。
二本、三本目も一気に飲んで、再び長い息を吐く。
太ももに肘をつき、俯いている内に、知らず、涙が地面を一つ、二つと濡らしていった。
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