金色にまもられて

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 ラーメン屋を出ると、店内と変わらないほどの熱気に倒れそうになる。あっついなあ、早く家に帰ってクーラーを付けよう。  早足で家路を急ぐ中、一軒のお店にまだ明かりがついていることに気がついた。あそこって何のお店だったっけ?毎日通る道だがとんと思い出せない。  近づいてみると、そこは花屋だった。 「こんなとこに花屋なんてあったかな?」  まあいつも仕事と家の往復で、かつ急いでいることがほとんどだから最近オープンしたのを気付いていなかったんだ。  勝手に納得し、また暑さを思い出して店の前から立ち去ろうとした時、店の前に置かれたバケツに入れられた一本の花が目に止まった。 「マリーゴールドです。最後の一本ですよ」 「うわっ!」 「急に話しかけてしまいすみません。あなたが熱心にそのマリーゴールドを見ておられたからつい」  目の前に長身の男性が立っていた。青いエプロンをしているところを見ると、お店の人なのだろう。年齢は29歳の私よりも若く見える。 「そんな風に見えてましたか、あはは」 「とても興味をもっておられたように見受けました。そうだ、今日は初めてご来店いただいた記念にこのマリーゴールドを差し上げますよ」 「いや、そんな。悪いですし、それに私に花なんか似合わないですから」  急な申し出に早口で拒否をしてしまった。自分に花が似合わないと思うのは本音だが、正直なところ近くでよく見ると店員さんがかなりのイケメンで緊張してしまっていた。  イケメンには気を付けろ。これは私の人生訓である。イケメンだからといって気を許し、その誘いに乗ってしまえば後々痛い目を見るに違いない。そんな捻くれたアラサー女子の本性が出てしまった。  しかし目の前のイケメンはそんな私の失礼な態度にもニコニコとした笑顔で接し続けてくれる。 「花が似合わない女性なんて一人もいませんよ。それにこのマリーゴールドはあなたに貰われたがっています」 「ええ、ええ?」 「文字通り生活に花を添える存在として、この花をあなたに贈ります」
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