2人が本棚に入れています
本棚に追加
優しさと、不思議な一日。
「はぁ……」
部活を終えて、帰り道。私は溜め息を吐いた。
「ほんと、今日はお前ツイてないね」
隣を歩く先輩が苦笑している。
あのあと、今日の部活で私が機材のボタンを押す度、機材が狂った。
押したボタンとは違う所でスイッチがオンになったりオフになったりして、収拾がつかなかった。
折角、先輩と帰っているのだから溜め息なんて吐きたくないのに。今日の事を思い出すと、部の皆に本当に申し訳ない。
部の皆に迷惑を掛けて……。
放送部の活動の一つである定期的な昼休みの校内放送も明後日に迫り、練習しないといけなかったのに。貴重な一日が潰れた。
また、溜め息。幸せが逃げちゃうじゃないか。
「すみません……」
今日は、と前置きして私は先輩に言った。
「ま、お前は悪くないし。しょうがないだろ。気にすんな、気にすんな」
ほら、いつもこの先輩はこんな風に、私の欲しい言葉をくれる。
優しくしてくれる。
私が欲しい言葉だと知って――全てを見透かされて、言葉を選んでいるように思えるくらい。
それが時々、酷く申し訳なくなるけれど……凄く、救われるんだ。
――やっぱり、好きだなぁ。
先輩にぺこりと頭を下げて、お互い別の道を行く。そんな帰り道の別れ際に、私はふとそんなことを思った。
最初のコメントを投稿しよう!