四日目「片想いの答え」

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四日目「片想いの答え」

 その日の夜。私はまた考える。先輩に告白はしない。そう答えは出た。でも、先輩に思い出して貰うべきかどうかという答えが出ない。  思い出して貰って、気まずい思いをまたするのならこのままの方が良いのかも知れない。そんなずるいことを私は思っていた。でも、弱気になるのはフラれた身からすると当然だとも思う。  でも、今日はあまり深く考えないで寝ることにした。折角昼間、一つ答えが出てすっきりしたのだ。よく眠れそうな日は、寝るべきだ。  とりあえず。しばらくはこのままで。別にずっとって訳じゃない。  私は私にそう言い訳して、落ち着かないながらも眠りについた。  そうして迎えた次の日。落ち着かずに眠った割にはぐっすり眠れたようで、目覚めはすっきりしていた。  学校では珍しく、昼休みに先輩に会った。 「なんだ、天瀬も学食か」 「葉月先輩!」 食堂でプレートを持って並んでいると、先輩が声を掛けてくれた。 「いつもはお弁当なんですけど、今日は寝坊しちゃって」 「なんだ、まだ気にしてるのか? この間の機材トラブル。それともまた課題が終わらなかったのか?」 「お弁当は母に頼んでるので、寝坊したのは母なんです。私は昨日はぐっすり眠れました」 「それは良かったな」 このままの関係を維持することに必死だった。  先輩と話すのに気を遣って。先輩と気まずくならないように、当たり障りない話題から。  そんなのは全然苦じゃなかった。だって好きだから。  好きな人との時間を少しでも楽しくしようと努力くらいする。  このまま変わらないで。そう思うと同時に、  でも、何も変わらない。と切なく思う自分が居る。私は首を振る。  それで良い。変えようとして失敗した。  そんな時に、学食を食べる食堂にもお昼の校内放送が流れた。 「お、春らしい曲だな」 生徒からのリクエスト曲を流すコーナーに先輩が感想を漏らす。 「やっぱり自分の部活だと、コメントしながらお昼食べちゃいますよね」 私は笑った。 「はたから見ると独り言みたいで、後から恥ずかしいって言うな?」 「そうなんですよねー」 二人して、一緒にお昼を食べながら笑う。  春と言えば、私が先輩に告白した頃。けれど先輩は顔色一つ変えない。覚えていないのだから当然だ。  私が覚えてれば良いや。  誰も覚えてなくて、その事実が無くなるんじゃない。  無くならないから。  ――それで良いと思ってた。 「この放送も、あと何回聞けるだろうな」 先輩の呟きが、考え事をしていた私の胸に刺さる。先輩の声のボリュームから、私に聞かせるつもりはなかったのだとわかるが聞こえてしまった。  ――私はあと何回、こうして先輩と話すことが出来るだろう。  残された学園生活で、いくつの思い出が作れるのだろう。  ――卒業までに。  先輩が卒業なんて意識させるから、先輩との時間の「終わり」を意識してしまう。  終わりが迫っている。  ――短い。短過ぎるよ。  ――無くなって、しまうのかも知れない。  私はふと気づいた。  このまま先輩が居なくなったら。 「天瀬? 箸止まってるぞ?」 先輩の声にそれどころじゃない。私の思考は止まらない。とりあえず、心配を掛けないために箸は動かす。  私だけが覚えていても、目の前から相手がいなくなって、時間さえも共有出来なくなったら――。  私だけが覚えている曖昧な思い出なんて、いとも簡単に無かったことになってしまいそうだ。  残された時間の短さを痛感して、共有したいと思った。  変わったって良いじゃん。  失敗じゃない。それも一つの答えでしょ。 「ま、今日の放送も終わったし、一安心だな」 「え?」 私は先輩の声に反応した。なんとなく考えがまとまりだして、余裕が出来たからかも知れない。 「もう、ほんとに気にしなくて良いだろ? この間のこと」 ――読まれている。  未だに少し、心配だったこと。  今思い出しても、あの日は相当な迷惑をかけた。今日の放送が終わるまでは、確かに安心出来なかったのだ。  どこまでも後輩想いで、真っ直ぐな先輩の瞳。それは今、私に向けられている。  私は、その瞳に応えたい。  この先輩に隠し事はしたくない。そもそも、口の軽い私がこれ以上隠し通せるかも怪しい。  毎晩寝る前に感じていた落ち着かなさは、罪悪感だったのだ。  先輩に隠し事をして、嘘を吐いているような罪悪感があった。  私は肩の荷が下りたように、ふうと息をついた。 「そうですね」 その日は楽しくて有意義な昼休みを過ごせた。
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