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運動不足の男の息は上がり、吐きそうになりながらも逃げた。深夜の道に人は見当たらず、異形の姿を見る者は、逃げる男の他には居ない。
男の息が荒々しくなった時、男は古びた電話ボックスを見付けた。相変わらず異形はついてきていたが、呼吸が限界に近付いた男は、電話ボックスに逃げ込んだ。
男は、電話ボックスの中でしゃがみ込んだ。助けを求める電話を掛けるでもなく、男は硝子に囲まれた場所でしゃがみ込んだ。だが、それは何の救いにもならなかった。異形は、完全に電話ボックスを包み込み、男は何処にも逃げることが出来なくなった。
男は、そこで漸く受話器を取った。しかし、男が受話器を手に持った途端、それはドロドロと溶け出し、男の手に纏わりついた。その溶解物は男の手をも溶かし、男は声にならない音を口から発した。そして、電話ボックスの硝子を強く叩いた。すると、叩いた手はボロボロと崩れ始め、男は驚きのあまり尻もちをつく。
男は口を開閉させるが、喉からは乾いた音が出るだけだった。そして、電話ボックスをとり囲む異形は、地面近くの隙間からその体を捻じ込もうとしていた。
男は、様々な穴から臭い汁を垂れ流した。それは、電話ボックスの床に広がり、地面を汚染していく。
男は、そのまま意識を失った。しかし、異形は電話ボックスから離れる様子を見せなかった。
やがて朝が来て、異形は何処かへと消えた。しかし、男の遺体だけが、使われ無くなった電話ボックスの中に残されていたーー
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