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会場のゲートが開く。大量の馬とそれに乗る亡者たちがスタート地点に進む。きゅうりの匂いがあたりに充満する。少し野菜が腐ったような匂いがするのはご愛嬌だ。
「さあ、騎手と馬の入場です。青鬼さん今回はどの馬がいいとかありますか」
「そうですね。駿馬の鈴木家はご子孫の方がうっかり馬に使う野菜を夏の晩ごはんにして食べてしまったから不参加のようですね」
そう言うと青鬼は会場を見回し、あっと言ったあとその方を指差した。そこには爪楊枝の脚の長さが不揃いでグリンとねじれたきゅうりがゆっくり歩いていた。
赤鬼は目録に目を通してマイクに向かっていう。
「えーあれは田中家の馬ですね。それで今年初盆のヨシノリさんが騎手を努めます。青鬼さんどうして」
「あれ、お孫さんが育てていたきゅうりらしくて、お孫さんの希望で市販のきゅうりではなくあちらのきゅうりに乗られることになったそうです」
「お! わざわざおじいちゃんのために!偉いな!となると相当早くなるのでは?」
「そうですね。精霊馬は子孫が祖先を思う気持ちが強ければそれだけ早く走ります。だからいい馬じゃないかなと」
会場の注目が田中家の馬に行きかけた時、ゲートの方を見るとすごいゴウゴウと音が聞こえてくる。
それを聞いた赤鬼は目をおもしろそうにきらめかせたあとマイクをとる。
「えー、会場の皆さん、亡者の皆さん、出来る限りゲートの側から離れてください。でないと吹き飛ばされます」
ものの3秒後、ゲートからすごい勢いで風と共にその馬とも呼び辛い精霊馬たちが突入してきた。ゲート近くに席をとっていた鬼たち、亡者、精霊馬は風に巻き上げられて空を舞う。
その馬は生き物の馬の形を模していなかった。
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