第1章 礼音

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第1章 礼音

「は?」 横たわり、向かい合う彼が、眉を顰めた。 「今、なんて?」 聞き違いかと思った彼が、再度の発言を求めてくる。 想定内の反応ではあったが、繰り返しの説明程怠いものはない。 彼女は軽い溜め息を吐き、二度はないように、よりはっきりと大きな声で告げる。 「私、結婚しようと思って」 面倒な報告を終え、早々に起き上がろうとすれば、剥き出しの右腕を掴まれる。 一瞬で、体は再びベッドに沈められた。 馬乗りになった彼が、仰向けになった彼女を見下ろしている。 その両眼は、負の感情に揺れ動いていた。 「どういう事だよ」 「なにが」 「いきなり結婚がどうの、よくもこういうタイミングで言い出せるよな」 「こういうタイミング?」 「セックス終わって5分も経たないベッドの中で、平然と他の男と結婚する話とか。そんなデリカシーのない女、お前ぐらいのもんだ」 怒りに満ちた男の視線を、彼女は冷めた目で見返す。 デリカシーがないとか、一体どの口が言っているのだろう。 こんな風にごちゃごちゃしてきた時決まって使う台詞を、彼女は吐き捨てる。
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