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再び現在
ラレイルの腕に抱かれ、リジーは過去の出来事に想いを馳せた。
あの時のラレイルほど頼もしいと思ったことはない。
二人は子どもを諦めたわけではなかったが、結局これまでにトア以外の子どもができることはなかった。
周囲からは何も聞こえなかったが、おそらくリジーの耳には入っていなかっただけだろう。
ラレイルはあの日の約束を守ってくれたのだ。
現在の白海の王ラレイルの子どもは王女トア一人。
それが今の白海王室のあり方だと、誰もが当たり前に思うようになった。
そのトアも大人になり結婚し、自分たちの手を離れ、これからの国を背負う者として準備ができた。次の王となる日も遠くない。責任感が強く周囲に信頼されている彼女は、王になり素晴らしい手腕を発揮するだろうと言われている。それは一人娘だったからこそだと、今では言われるほどだ。本当に、周囲は都合のいいことを言う。
しかし誰もこうなることは予想しなかったに違いない。まさか今になって、またリジーが妊娠するなんて。
リジーは自分のお腹に手を当てた。すかさず、そこにラレイルの手も重ねられる。
「リジー……ありがとう」
「……ラレイル……また約束して欲しいって……今度は私だけじゃなくて、この子のことも守って欲しいって思うのは……私のわがままかしら」
「まさか。むしろ、そう言ってくれないとオレは悲しいな」
「……」
「でも……今度はリジーがオレに約束してくれる? 生まれてくる子のことを守ってあげて。そしてリジーのことは、オレの代わりにこの子が守ってくれると思う」
ラレイルの言葉から伝わってくる意味を考えたくなくて、リジーはわざと悪態をついた。
「ラレイルみたいなのが生まれてきたら嫌だわ」
「えー酷いな~」
「……うそ。ごめんなさい……約束するわ。……多分この子はあなたの生まれ変わりなのよ。ふふ、だったら愛しすぎちゃうかも」
「むむ……それは妬ける……というか、オレまだ生きてるけど?」
「ふふふ……」
「……今のうちにたくさん抱きしめてあげるね。そしたらお腹の子にオレの愛情が伝わるかな」
「ええ、きっと。……でも、鬱陶しがられるかもよ?」
「え~?」
子どもはきっと、男の子だと思う。否が応でもラレイルに似て周囲を困らせるに違いない。
その日リジーは夢の中で、元気よく走り回る男の子の姿を見た。
《The End》
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