あの日のこと

1/7

10人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ

あの日のこと

 一国の王にもなれば多くの責務が伴うが、その一つを知っているだろうか。  それは、跡継ぎとなる子を成すことである。  国や時代にもよるが、この国『白海(はくみ)』では、歴代の王には平均して五、六人程度の子どもがいた。白海の王はこの世界の四天王でもあるため、その力を分けた子どもの数は多い方がいいとも言われている。  しかし今の王ラレイルには、娘が一人だけ。正直に言って王の子どもの数としては少ない。  いつの時代も周囲は当たり前に、王子・王女が婚約すれば結婚が楽しみだと言い、結婚すれば跡継ぎが楽しみだと言い、王子が生まれれば次は王女を、王女が生まれれば次はまた王子をと、好き勝手言うものだ。  ラレイルの時もそれは同じだった。娘のトアが3歳になる頃には「次の御子様が楽しみですね」と言われるのが会話の締めくくりの挨拶のようになっていた。彼はこの時まだ21歳の若い王だ。王妃である妻リジー(リザエラ)とも仲がよく、そう望まれるのもおかしいことではない。  しかしそれからしばらくしてもめでたい話は一向に聞こえてこず、そのためいつしか(ちまた)では国王夫妻の不仲説すら囁かれるようになった。 ***
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加