あの日のこと

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 ある日、宰相バルドルは子作りについて思い切ってラレイルに進言することにした。先代の頃から王の補佐をしてきた彼は、色々な噂が聞こえてくるとどうしても心配になってくる。  ラレイルが王になってからまだあまり年数は経っていないが、白海の国は目覚ましい成長を遂げている。国王夫妻に何か問題があるという噂はこの勢いを失速させるマイナス要素でしかないのだ。子どもの数は繁栄の証にもなる。なんとしても次の子どもを作ってもらわなければ。  しかし当の王本人はのんきに答える。 「みんなが心配するのも分かるけど、こればっかりはどうしようもないでしょ」 「ラレイル様、もっと真剣に考えてください。お二人が不仲である、御子様を作ることに対して何か問題があると言われているんですよ。それに、今後のことを考えても御子様がただお一人というのは……トア様に万が一のことがあったら――」 「こら。まず、私はいつだって真剣に考えている。次に、私とリザエラはもちろん仲がいい。それから、万が一をトアに起こさせないようにしなさい。最後に、本当に私の後継者がいなくなるような事態になれば、その時は妹か弟の誰かか、彼女らの子どもに継がせればいいだけの話だ」  素質があるかどうかは別だが、王家の血筋という観点だけで見れば、次の王の候補者はゼロではない。長い歴史の中で現王の兄弟や甥姪が王になったこともある。跡継ぎは『現王の子ども』にこだわる必要はないのだ。 「しかし……まずはラレイル様の血を分けた御子様をお作りになるべきでは……もしリザエラ様との間でお作りにならないのでしたら、仕方ありません。他の女性といかがでしょうか。僭越ながら私がお相手を選定してもいいのですが、気になるようでしたらお二人でお決めになってもよろしいのですよ」  過去の王の中には側室を持つ王もいた。前王であるラレイルの父親も正妻と後妻、また別に二人の側室がおり、正式な子どもはラレイルを含め六人いる。 「嫌に決まってるでしょ。お前には昔言ったことがあると思うけど、私は父上のように何人も妻を(めと)ることはしないし、側室も作らない」  彼は父親の女好きには辟易(へきえき)していた。自分も女好きと自負しておりそれを棚に上げてと言われるかもしれないが、父親は酷い。正式な子ども以外にもたくさん子どもがいることをラレイルは知っている。そんな父親みたいにはなりたくなかったし、自分の子どもに同じような思いをさせたくなかった。  ラレイル自身の兄弟関係も彼にこう思わせる要因の一つだ。六人兄弟の中で仲がいいと言えるのは母親が同じ弟だけ。他の四人の妹は厄介ごとしか持ち込まない。母親が違うだけで面倒が増えるだけだ。
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