あの日のこと

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「はぁー……あのね。オレたちが子どもが欲しくないと思っているとでも言うのか? オレたちが真剣じゃないとでも?」  周囲に言われるまでもなく、子どもについては夫婦で何度も話し合った。リジーも王妃として、二人目の子どもができないことに罪悪感も感じていた。彼女が陰で泣いていることも知っている。国医や専門医とはすでに話をしたし、これまでに夫婦で出来る限りのことはしてきたのだ。 「一般夫婦のお話でしたらここまで口を出しません。しかしあなたはこの国の王であり、世界の四天王でもあるのです!!」 「いくらオレが四天王だからって、どうしようもできないことはある。子どものことなんてその最たるものだ」 「……国民も今の状況では納得しませんぞ。ラレイル様も、周囲からどのように言われてらっしゃるかご存じでしょう!」 「噂でしょ? そんなもの放っておけばいい。それにみんな納得するよ。もしこのままオレの後継者がトア一人だった場合、十年後にはそれで良かったって言うさ。その頃には子どもの数なんて関係ない。さらにトアが将来、次の四天王になる時にはみんな、今の王家の在り方が良かったからそのおかげだって言うんだ。そしてあの子はきっと、オレなんかよりよっぽど立派な王になる」  それまではどんな非難批判も、受け止める覚悟があった。リジーもトアも、心無い非難からは守ってみせる。 「とにかくこの話はこれっきりにしてくれ。夫婦できちんと考えることだ。そして夫婦のことには口を出さないほうが懸命だよ」  独身のお前には分からないかもしれないけどねと余計な一言を加え、ラレイルは椅子から立ち上がった。言葉にならないような情けない声を上げるバルドルを残し、彼は部屋を後にした。 ***
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