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「…っと」
腕をすり抜け、落ちかけるファイルを持ち直した遼平は、辿り着いた資料室の前で足を止め、深く息を吐く。
(いくら鈴木さんが、オカン体質だからったって)
男に告られた場合の対処法なんて伝授できないだろう、と胸の中で呟きながら、伸ばした指先で扉の取っ手を捉え、ゆっくりと横に押し開いた。
「…」
資料室の部屋のドアは吊戸式になっているため、音が立たない。
しかも遼平のような、両手が塞がっている人間にはありがたいくらいの力で開閉するドアを潜り室内へ足を踏み入れると、ドアに背中を沿わせ、自動で閉じる動きを加減し、ゆっくりと閉じた。
ドアが閉じた瞬間、廊下と室内との明暗に目が眩んだが、資料室の隅からカーテン越しに差す陽光で目が慣れると、廊下ほどではないが、部屋の中がきちんと判別できるほどの明るさがあることに気がつく。
(これなら)
電気をつけなくても大丈夫だな、と思った、その時。
「だったらっ」
と、小声ながらも、苛ついていると分かる女性の声を耳にした遼平は、進みかけた足をぴたりと止め、耳を澄ませた。
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