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僕を心配して、母が部屋にやって来た。
床に酒瓶を置いて、くだを巻いていた友人がよろよろと、入れ替わりに部屋を出ていく。残った酒のにおいに、母が眉をひそめた。
友だちは選びなさいね、と言われるが残念――もう選べるほど人は残っていないし、あの日以前の彼は今ほど、露悪的ではなかった。彼もまたあの日、大切な人を失っている。
あんたはまだ若いんだから、と彼女の前で僕に言える母の気が知れない。僕を励まそうとする妙に前向きなその類の言葉は、さっき帰った彼の言葉よりもずっと、ささくれだって僕の耳に聞こえた。
帰って欲しいとだけ伝えると、母はこんな“物”がいつまでも部屋にあるからいけないと彼女のことを責め始める。
止めて欲しい、彼女は物ではないし、罰なら疾うに受けているのだから――
感情のままに怒鳴って母親を部屋から追い出すと、軽い吐き気のような自己嫌悪に襲われた。
この事態に未だに適応できない僕が異常なのだろう。
僕はどうしても、前を向くことが出来ない。
――結局、出て行った彼を部屋に呼び戻し、床で一緒に飲んだ。どんなときであれ、酒は旨い。まるで安い救いのように。
ふらふらしながらも僕の事情を汲んで、僕の分までお酒を買って来てくれる彼は、やはり数少ない僕の友人なのだった。
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