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町は在りし日の姿をまだ残している。コンクリートはひび割れて草に浸食され、商店街はほぼシャッター通りと化した。
それでも、通りの地面に無造作に生えている無数の木は、あの日の混乱をそのままに再現している。
と言っても、もう三年も経つ――中には僕の身長なんて、遙かに超えてしまった木もある。
そう、もはや立派に木なのだ。
人間だった木は生えている場所が明らかにおかしくそれと分かる。先を行く彼は人間だったと思しき木と出会う度、小さく会釈をしてみせる。彼らが人間だったときよりよっぽど敬意を表して。
町の中心部、平日の昼間だというのに、僕らの他には人っ子一人おらず、車は極まれに通るだけという静けさ。
木漏れ日が優しく、小鳥のさえずりがまた沁みる。
もうまともな人類は滅びてしまったかもなぁと彼は頭の後ろで腕を組んで軽く笑う。
「……僕は?」
僕は僕を指さして問う。
彼は目を丸くした。まともなつもりだったのかと。
「君は、違う。まともな人間なら、木になった彼女のお世話なんて、三年も出来ないだろ」
そう、この三年間、僕は彼女のお世話を一日だって欠かしたことはない。
それを彼はとっくに正気の沙汰ではない、と言った。僕には分からない感覚だった、だってそこに彼女はいるのに。
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