森に還る

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寄生され、木になった人々は、植物と同化したのか。それとも、養分とのみ見なされ、利用されたのか。意識は残っているのか。どれも謎のまま。 世界中の植物たちはネットワークで繋がっているという説もある。百年足らずの寿命を捨ててその中に迎え入れられるのなら、それはそれで魅力的な話だと彼は言った。 今の世の中では、特別珍しい考えではない。 どうせ人として死んで灰になるだけなら、木に身をやつし長い時を生きる、それも悪くないのではないか。 彼の熱心な口振りから、彼がそれを望んでいることが痛いくらいに分かった。 僕は彼を止める言葉を持たない。 いつか彼は、その辺の木の実をもぎ取って無造作にかじり、種ごと食べてしまうのだろう。 そうして人の身である僕からは、遠い場所に行ってしまうのだ。 ……対して僕はどうだろう、誰から置いて行かれても、彼女が生きているうちは、彼女のお世話をしたいと思う。 きっと僕が先に死ぬ。恐らくは人として。 その、長く穏やかで、緩慢な人生を思う。 ああ、なんだ。僕は植物と、そう変わりはないのかもしれない――
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