森に還る

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夏も終わりのある日、空から植物の種が落ちてきた。世界中に降り注いだその種は人間に寄生し、寄生された人間は木に姿を変えた。 人類の人口は瞬く間に三分の二程に減り、専門家たちはこの事態を解決することも、木になった人々を元に戻すことも出来なかった。最初は混乱した世界だが、事態を受け入れることしか出来ないと分かると、システムはそのままに縮小された。 もともと人類は増えすぎていたのだ。地球温暖化、大気汚染などそれまで人類が頭を悩ませていた問題は、呆れるほどあっさり解決してしまった。 三年の月日が流れる頃には、僕もアパートの二階から眺める町に慣れてしまった。あのとき、木になった人々。人家の屋根に紛れてところどころに、まるで墓標のような緑の混ざる町の景色は、まるで(まば)らな森のよう。 慣れてしまえばそれなりに、心の安まる風景ではある。 勿論、未だに慣れないことだってある。それは大切な人たちの不在だ。
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