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大蔵理恵から電話が掛かってきたのは、午前0時を回った時だった。
『敦、振られたんでしょ』
開口一番にそう言われた俺は、返事をせずに手に持っているスマートフォンを耳から離した。
なんで知ってるんだよ。
もしもし、という声がしつこく聞こえてくるので、理恵に疑問をぶつけてみる。
『剛から昨日動画が送られてきたから』
「動画?」
『それを見て、可哀想でねぇ』
「何だよ、その動画って」
『あれ、知らないの?今送ってあげるよ』
酒が入っているのか、いつもより声のテンションが高い。電話越しに、アルコールを注文する声が聞こえてくる。また飲んでるのか。
『何年付き合ったんだっけ』
「・・・5年」
『今大学二回生だから。うわぁ、中学時代からじゃん。私を見てくれない、って言われたんでしょ。ご愁傷様』
ちょっと待て、何でそんなことまで。動画と理恵は言っていた。
俺は電話を切り、理恵から送られてきた動画を再生する。
そこに映っていたのは、顔を真っ赤にさせ、ビール片手にゆらゆらと揺れている俺だった。
撮られている事を気にもせずビールを飲み、語りかけている。
「俺はさぁ、好きだったんだよ。ずっと。結婚の約束もしててさぁ。なのに、何だよ、急にさ。夏祭りも流れ星も見に行く予定でさぁ」
「何て言われたんだっけ」
「私のこと、見てくれていないって。見てたよぉ。何がいけなかったんだよ」
そう言いながら、動画を撮っている剛に手を伸ばし、おい、という声が聞こえて画面から俺は消えた。
なんとも情けない。だが、全く記憶に無かった。
確かに、二日前に剛と居酒屋で飲んでいた。振られたショックからも早いペースで飲み進め、気がつくと朝になっており、周りに誰も居なかった事は覚えている。
もう一度着信があり、電話に出ると理恵が声を弾ませていた。
『見た?』
「見たくなかった」
『現実から目を背けてはいけないな。いいじゃん、ありのままで』
何が良いものか。こんなの、黒歴史だ。
『でも、振られた理由は分かるなぁ』
「は?なんで」
『だって、あんた、その子の事好きじゃ無かったでしょ』
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