星が流れる夜に、彼女は目を閉じる

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理恵は高校の頃からの同級生で、俺の悩みをよく聞いてくれる友達だ。正直、恩もある。だがいくら酔っているとはいえ、いい加減な物言いには流石の俺も腹を立てた。 「好きに決まって・・・」 『少なくても、相手の子はそう感じなかったんでしょ』 俺の言葉を遮り、そう言った。 「どういう意味だよ」 『自分の胸に聞いてみなさい』 酔っ払いの言葉に耳を貸すだけ無駄だ。 「わざわざそんな事を言いに電話を?」 『まさか。あんたがあまりにも可哀想だから心配して電話を掛けたの』 「心配してくれてどうも。それじゃあ」 『あんた私の従姉妹に会わない?』 「何でそうなる」 『私の従姉妹も丁度彼氏と別れてね。それも悲しい理由なのよ。だから、会ってみない?』 相当酔っているのか、言っていることが無茶苦茶だ。 「今はそんな気分じゃ無い」 『そう言わずに、会ってあげて欲しいの』 急に真面目な声になる。会ってあげてほしい? 「どういうこと?」 『理由は会ったら分かるわ。私からの一生に一度のお願い』 それは以前も聞いたよ。お前の一生は何回あるんだ。 「分かったよ」 そう毒づきながらも、俺は断る事は出来ない。 『ありがとう!それじゃあ詳しい日時が分かったら連絡するね。お休み』 一方的にそう告げて電話を切られた。 週末の日曜日。 理恵から教えられた場所は、小さな喫茶店だった。時刻は昼の1時。従姉妹の名前は珠恵(タマエ)というらしい。背は低く、肩まで掛かる黒髪。目立つ物をつけているから、店の前で待っていたらきっと分かるという適当さ。 俺は約束の10分早く喫茶店に到着した。店の前には一人先客がいた。その女性は、理恵が言っていた人物の特徴とよく似ていた。茶色のサングラスを掛けている。 俺の視線に気づいたのか、その女性がこちらに近づいてきた。 「あの、山城敦さんですか?」 「もしかして、珠恵さん?」 初めまして、と丁寧に頭を下げて挨拶をしてきた。何だか、がさつな理恵とは正反対だ。 俺たちは挨拶をそこそこに店の中に入った。 店内は客が何人かまばらに見える程度だった。 俺たちは一番奥の窓際の席に案内される。 メニュー表を渡され、俺は無難に店長お勧めと書かれてあるコーヒーを頼んだ。珠恵さんはウィンナーコーヒーという洒落たものを頼む。 少しの沈黙が流れる。彼女はサングラスを外さずにメニュー表を見ている。 気まずい・・・。俺も同じようにメニュー表を見ていると、彼女の方から話しかけてきた。 「あの、敦さんのことは、ずっと理恵姉ちゃんから聞いていました。お会いできて光栄です」 また深々と頭を下げる。そんなに畏まられたらこちらが申し訳ない気持ちになる。 「お姉ちゃんってことは、理恵さんより年下?」 理恵さん、なんて本人にも言ったことがない。 「いいえ、実年齢は変わらないんですけど、小さい頃からずっと頼りにしていたので、それでお姉ちゃんって呼んでいるんです」 「あぁ、そうなんですか」 したり顔の理恵が目に浮かぶ。 「確かに、お姉さん気質かもしれませんね。高校の時からそうでした」 「へぇ」 サングラスで目の様子は窺えないが、声が弾んでいる所を見ると、本当に慕っているのだなと分かる。 「理恵さんにはお世話になりました」 今度は俺の方が頭を下げる。いえいえ、そんな。とまた彼女も頭を下げた。 少しの間があり、お互い笑った。 「よくよく考えると、可笑しな状況ですよね」 珠恵さんが恥ずかしそうに言う。 「確かに、そうですよね」 会ってあげて欲しいという言葉が気になって会いに来たが、珠恵さんは何故俺に会おうと思ったのだろうか。
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