星が流れる夜に、彼女は目を閉じる

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『何?嫌いなの?』 「好き嫌いの話じゃない。俺の何気ない一言で、傷つけたらと思うと」 『呆れた』 理恵は鼻で笑った。 『あんた、自分の事を聖人君主か何かと思ってるわけ?結局あんたはあの子の事を可哀想な子くらいにしか思っていないわけね』 失望したわ、と言った。 「そんな事思ってない」 『だったら何?男女の間にあるのは、好きか、嫌いか。単純な話でしょ。気になったら次も会う。そうじゃないの』 そんな風に割り切れない。確かに、俺は一女性として彼女を見ているのではなく、病気を患っている女性とみている。何て声を掛けたら良いのか、分からない。 『何難しいこと考えているのよ。嫌いじゃ無いのなら、会ったら良いじゃ無い。お互い興味を持っているなら、会えば良いじゃ無い。やりたいことをしたらいいの。あんたはそうやって、頭より先に身体が動くタイプなんだから』 人を本能動物みたいに。 『私があんたに相談したときもそう。あの時、ごちゃごちゃ考えていた?』 困ったことがある。理恵からそう言われ、話を聞いた時、それは彼氏の事だった。当時付き合っていた彼氏が浮気をしているかもしれない、と理恵が言うので、俺は現場を押さえようと言った。 『知るのは怖かったけど、結局行動して良かった。あんたの一言で気持ちが楽になった』 休日仲よさそうにホテルから出てきた彼氏を、理恵は力一杯ビンタしたのだった。あれは衝撃的だったな。 『大丈夫よ。敦はちゃんと珠恵の事を見てくれているもの』 この前初めて会ったばかりなのに、何故そこまで自信満々に言えるのか。でも理恵の言うことも一理ある。 俺は彼女のことが・・・。 それから一週間が経った。 改札の前で待っていると、彼女が現れた。 やはり目にはサングラスを掛けている。 「遅れてすみません」 「いいえ。わざわざ来てくれてありがとうございます」 申し訳ないと思いつつも、日時と場所はこちらで指定させて貰った。 「たった一駅なので。それで、どちらに」 走ってきたのだろうか。息が少し上がっている。 「ここからすぐ近くなんです。少し歩きますけど」 珠恵さんは大丈夫です、と微笑む。 時刻はもう20時を回っていた。もうすっかり日は落ちている。 「何か、賑やかな音が聞こえてきませんか?」 珠恵さんが不思議そうに聞いてくる。理恵から、現在の珠恵さんの目の進行具合は聞いていた。夜道では車のヘッドライトなどが眩しく移るそうだが、今は歩行に問題はないらしい。 彼女はごく平然と歩いている。だが、見える景色はやはり濁っているのだろう。 「実は、この辺りでお祭りをやっているみたいなんです」 「お祭り・・・。今日はそちらへ?」 少し戸惑いながら聞いてくる。俺は首を横に振った。 「いいえ、今日はちょっと行きたいところがあって。もう少しです」 駅から歩くこと10分。目的地の河原に到着した。 階段をゆっくりと降りる。 後ろを振り向くと、手すりを持ちながら「大丈夫です」と珠恵さんが答えた。 今日は夏祭りなのでわざわざここに来る人は居ないだろうと思っていたが、何人かの男女がシートを敷いて横になり、空を見上げていた。
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