2人が本棚に入れています
本棚に追加
「ここって」
「今日は、ペルセウス座流星群が見られるかもしれないんです」
流星群・・・と彼女は呟いた後、俺の顔をじっと見つめてくる。何故、どうして、という心の声が聞こえてくるようだった。
俺は小さいシートを一枚敷き、彼女に座るように促す。彼女は困惑しつつも座った。もう一枚シートを並べ、俺も座る。
珠恵さんは何も言わない。ただどうしたらいいのか分からない様子で、空では無く目の前の川を見つめていた。
「俺、実は流れ星って見たことが無いんです」
そう言うと、珠恵さんは再びこちらを見る。
「小さい頃、この河原で友人と流れ星を見に来たんですけど、俺はずっと目を瞑って祈っていたんですよ。いつ流れてもいいように」
「それ、いつ流れたかわからなくないですか」
「そうなんですよね。隣にいた友人も同じ事言ってました。で、そいつは流れたら肩を叩いてやるって」
「・・・優しいですね」
少し声に余裕が戻った、と俺は感じた。
「でもね、結局流れなかったんですよ。あれから毎年見に来てますけど、見えません。でも今日は、流れる気がするんです」
「それを、何で私と?」
「願い事があるんです。でも、一人じゃ無くてあなたと一緒に来たかったんです。すみません、それだけなんです」
そう言うと、嬉しいです。と彼女は答えた。しかしすぐに自信を無くす。
「上手く見えますかね。サングラスを外して夜空を見るのが、ちょっと怖いです」
大切な人に捨てられた感覚、それは彼女自身の存在否定されたように、重くのしかかっているのではないか。
そんな彼女に、出会って間もない俺が何を残せると言うのか。簡単だ。気持ちを、伝えれば良い。
「じゃあ、流れ星が流れたら肩に手を置きます」
え、という声が漏れる。
「その時、何か願い事を言ってください。俺も願います。願えば叶うらしいです」
「どうして、私にそこまで」
そう聞かれ、少し照れながら答える。
「あなたの事が、あれから頭から離れなくて。出会ってまだ少ししか経っていないけど」
暫く沈黙した後、彼女は、何も答えず、シートの上に横になった。サングラスを外し、目を閉じる。
俺も仰向けに空を見上げる。
今日は満点の星空だ。雲一つ無い。
「私、実は一度だけ流れ星を見たことがあります」
彼女が唐突にそう切り出した。
「その時、私はただみとれてました。願う余裕なんて無かったな。でも、今日もし流れたら、ちゃんと願います」
「何を願うんですか」
「秘密です」
彼女はからかうように答えた。
俺は、目を閉じる。
そして、暫く経った後、彼女の肩にそっと手を置いた。
流れ星が降れば良い。
願うことはただ一つ。
どうか彼女の目に、満点の星が映りますように。
最初のコメントを投稿しよう!