星が流れる夜に、彼女は目を閉じる

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「ここって」 「今日は、ペルセウス座流星群が見られるかもしれないんです」 流星群・・・と彼女は呟いた後、俺の顔をじっと見つめてくる。何故、どうして、という心の声が聞こえてくるようだった。 俺は小さいシートを一枚敷き、彼女に座るように促す。彼女は困惑しつつも座った。もう一枚シートを並べ、俺も座る。 珠恵さんは何も言わない。ただどうしたらいいのか分からない様子で、空では無く目の前の川を見つめていた。 「俺、実は流れ星って見たことが無いんです」 そう言うと、珠恵さんは再びこちらを見る。 「小さい頃、この河原で友人と流れ星を見に来たんですけど、俺はずっと目を瞑って祈っていたんですよ。いつ流れてもいいように」 「それ、いつ流れたかわからなくないですか」 「そうなんですよね。隣にいた友人も同じ事言ってました。で、そいつは流れたら肩を叩いてやるって」 「・・・優しいですね」 少し声に余裕が戻った、と俺は感じた。 「でもね、結局流れなかったんですよ。あれから毎年見に来てますけど、見えません。でも今日は、流れる気がするんです」 「それを、何で私と?」 「願い事があるんです。でも、一人じゃ無くてあなたと一緒に来たかったんです。すみません、それだけなんです」 そう言うと、嬉しいです。と彼女は答えた。しかしすぐに自信を無くす。 「上手く見えますかね。サングラスを外して夜空を見るのが、ちょっと怖いです」 大切な人に捨てられた感覚、それは彼女自身の存在否定されたように、重くのしかかっているのではないか。 そんな彼女に、出会って間もない俺が何を残せると言うのか。簡単だ。気持ちを、伝えれば良い。 「じゃあ、流れ星が流れたら肩に手を置きます」 え、という声が漏れる。 「その時、何か願い事を言ってください。俺も願います。願えば叶うらしいです」 「どうして、私にそこまで」 そう聞かれ、少し照れながら答える。 「あなたの事が、あれから頭から離れなくて。出会ってまだ少ししか経っていないけど」 暫く沈黙した後、彼女は、何も答えず、シートの上に横になった。サングラスを外し、目を閉じる。 俺も仰向けに空を見上げる。 今日は満点の星空だ。雲一つ無い。 「私、実は一度だけ流れ星を見たことがあります」 彼女が唐突にそう切り出した。 「その時、私はただみとれてました。願う余裕なんて無かったな。でも、今日もし流れたら、ちゃんと願います」 「何を願うんですか」 「秘密です」 彼女はからかうように答えた。 俺は、目を閉じる。 そして、暫く経った後、彼女の肩にそっと手を置いた。 流れ星が降れば良い。 願うことはただ一つ。 どうか彼女の目に、満点の星が映りますように。
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